担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

一緒に活動するなかで、巧実の人柄を知れば知るほど、その思いは強くなっていった。

人を決して悪く言わない。
いつも周囲を気遣い、誰も拒まずに受け止める包容力もある。

その人のよさゆえに、今までうまくいかなかったこともあるのかもしれない。
そう思うと、なおさら自分が巧実を支えなくては、という気持ちが募った。

とはいえ、その後の道のりは、順風満帆とはいかなかった。

人気に火がつきかけた矢先、愁のスキャンダルが発覚した。
大樹はかなり憤っていたのも、当然、と言えば当然の反応だ。
けれど、巧実は愁を許した。
巧実がそう決めたのなら、海斗に異を唱える理由などなかった。
巧実の説得もあり、最終的には大樹も愁の謝罪を受け入れ、四人は活動を続けることになった。
海斗にとって、大切なのは、巧実と一緒に踊れることだけだった。

長い年月をかけ、少しずつ、少しずつメンバーそれぞれが得意分野で地道に種をまいていく。やがて、その努力は実を結び、個人としても、活躍の場を広げていった。
そして、十年越しに、Bright Directionは再びブレイクを果たした。


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「そんないきさつがあったなんて、初めて知った」

大樹がグラスを片手に口を開いた。

今日はツアー成功の打ち上げ。四人は巧実の家に集まっていた。

「そんな大変な思いをしてBright Directionに入ったのに、あのときは台無しにして、本当にごめん」

愁が、申し訳なさそうに頭を下げる。

「もう、いいって。ほんとに。あのことがあったからこそ、今のBright Directionがあるんだよ。きっと」
「でも、そうか。納得だわ」

大樹はひとり、うんうんと頷いた。

「何が?」
「海斗の巧実さんへの崇拝ぶりが、すごいから」
「そうか?」

巧実は、よくわからないというように首をかしげた。

「なんか、いろいろ下世話な想像したこともあるけど」
「おい」

巧実が、すかさず制する。

「まあ、俺の人生を変えた人だからね。本当に尊敬してるよ」
「そんなに言われると、恥ずかしいな。俺こそ、みんなのおかげでもう一度チャンスをもらえたんだから、感謝してる」

巧実が照れたように笑う。

人生は、わからないものだと思う。
ブレイクダンスで世界の頂点を目指すことしか考えていなかった、あの頃。
病に倒れ、すべてを失ったように感じた。
そこから、巧実に出会い、アイドルの世界に足を踏み入れた。
この世界に入ってからも、上がったり下がったり。
決して、順風満帆だったとは言えない。
それでも、振り返ってみれば、充実した日々だった。

何より、人生を変えるほどの出会いがあった。
いや。
人生をかけてもいいと思える人との出会いが。

結局のところ、巧実がいてくれれば、俺の人生は満たされているのだ。

今はまだ。

尊敬する人、ということにしておこう。

今はまだ、ね。