担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

ある日、気分転換に病室のテレビをつけた。
特に見たい番組があるわけでもなく、パラパラとチャンネルを変えていく。

ふと、音楽番組が目に留まった。

歌っていたのは、六人組のアイドルグループ。

アイドルなんて、それまで気にしたこともなかった。
けれど、ステージを見た瞬間、衝撃を受けた。

惹きつけられたのは、歌声よりも、身体の動きだった。
なかでも、ひときわ目を引く青年が一人。

自分が得意としてきたような、アクロバティックな技が多いわけではない。
けれど、リズムの取り方。
指先の動き。
視線。表情。
すべてが魅力的だった。

「……かっこいい」

思わず声が漏れた。

それが、北川巧実だった。

その日から、海斗は巧実を追いかけるようになった。
ライブDVDを手に入れては、何度も繰り返し見る。
出演する音楽番組も、欠かさずチェックした。
いつしか、病室で過ごす時間の多くが、巧実を追いかける時間になっていた。

そして、そうしているうちに、海斗の中で、ダンスに対する、新たな感情が芽生えて始めた。

もう一度踊りたい。

どんな形であってもいい。

ブレイクダンスしか見てこなかった自分の世界を広げてくれた、巧実のように。

やがて海斗は、長いリハビリを経て、少しずつ身体を取り戻していった。
以前のようには動けず、なかなか思うようにいかない日もある。
それでも、もう腐ることはなかった。

そんな折、巧実の所属するグループの解散が発表された。
同時に、巧実が新しいグループを結成するという。
しかも、メンバーを一般から募集するらしい。
海斗は、その記事を何度も読み返した。
胸の高鳴りを抑えきれなかった。
憧れの巧実と、一緒に踊れるかもしれない。
海斗は、迷わず応募した。
海斗をよく知る人からすれば、以前に比べて精彩を欠いて見えたかもしれない。
それでも、培ってきたダンスの技術は伊達ではなかった。
圧倒的な技術に加え、実は人目を引く甘いマスク。
そして何より、その熱意が評価され、見事に合格を勝ち取った。

巧実に加え、西島愁、南川大樹とともに、「Bright Direction」のメンバーとしてデビューを果たしたのだ。

これでだめなら、この道をあきらめる。そんな覚悟で新たな一歩を踏み出した巧実の姿を知って、海斗は心に誓った。

━━俺が必ず巧実をトップに押し上げる。