担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

それから。
Bright Directionは、押しも押されもせぬ国民的アイドルになっていった。

リリースするアルバムは、必ずヒットチャートで一位を獲得した。
アルバムのリード曲を引っ提げて行われるドームツアーは、楽曲やパフォーマンスだけでなく、メンバーのトークや企画の面白さも話題になった。
そして、さらに規模を広げたスタジアムツアーも成功させ、いつしかBright Direction は、日本で一番チケットの取れないグループと言われるようになった。

愁をはじめとして、メンバーたちも、それぞれの分野で活躍していた。

舞台。
ドラマ。
映画。
コメンテーター。
ソロでの音楽活動。

グループとしての活動と並行しながら、それぞれが自分自身の居場所を広げていった。

それでも。
メンバーが集まれば、そこには変わらないものがあった。
歌って。
踊って。
笑って。
何万人ものファンの前に立つ。
愁は、あの時の約束を果たした。
もう一度、トップを目指す。
それはもう、誰も否定できない形で実現していた。

一方で、美咲もまた、作家として、忙しい毎日を送っていた。
新刊を出せば、そこそこ売れる。
ときには作品がドラマになった。
コミカライズされることもあった。
誰もが知る大作家というわけではない。
けれど。
自分の書いた物語を待っていてくれる読者がいる。
それだけで、美咲には十分だった。
締め切りに追われる毎日。
打ち合わせ。
取材。
次の物語のことを考える時間。
忙しくて。
充実していて。
少しだけ孤独な日々。

もちろん、推し活も続けていた。
誰にも言わないけれど。
新曲が出れば聴く。
出演作は必ず見る。
時間が合えば、ライブ配信も見る。

恋愛をしなかったわけではない。
付き合った人もいる。
一緒にいて楽しいと思った人もいた。
この人となら、と思ったこともあった。
けれど、うまくいかなかった。
自分の心のどこかに、ずっと愁がいた。
それが恋なのか。
ただの憧れなのか。
美咲自身にもよくわからない。
ただ。
愁が幸せならいいと思う。


「……相変わらず、かっこいい」
テレビの向こうで、愁が笑っている。

「もう一度、トップを目指す」
あの日、口にした言葉を、ちゃんと叶えた。
「よかったね」
美咲は、画面に向かって声をかけた。