担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

ドラマの撮影が終わると、美咲が愁と仕事で顔を合わせる機会は、驚くほど少なくなった。
あれほど頻繁に顔を合わせていた時間が嘘のようだった。
ドラマの放送期間中には、何度か、二人で情報番組に呼ばれることもあった。

原作者と主演俳優。

世間から見れば、それだけの関係だ。

司会者からドラマについて聞かれると、

「西島さんをはじめとして、皆さんの演技が素晴らしくて。原作以上に作品を魅力的にしていただきました」

「原作の信吾が魅力的だったので…」

そんな風に、お互いに当たり障りのないコメントを返した。

二人の関係を知っている人は誰もいない。

隣に住んでいることも。
愁が美咲にコーヒーを淹れてくれたことも。
美咲が愁のファンだということも。

収録が終わり、スタジオを出たところで、美咲は愁とすれ違った。
「……お仕事、頑張ってください」
「美咲さんも」
「ありがとうございます」
それだけ言って、美咲は小さく頭を下げた。

──近づきすぎない。

そう決めたのは自分だ。
けれど、愁の背中を見送りながら、美咲は胸の奥に、少しだけ切なさを感じていた。