担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

一方で、愁は、最近の美咲に、微かな違和感を抱いていた。
これまで通り、話しかければ普通に答えてくれる。
笑ってもくれるし、避けられている様子はない。
けれど、何かが違う。以前より美咲の存在を少し遠く感じる。
愁にはそれが寂しかった。

美咲といると、不思議と自然体でいられた。
芸能人としてではなく、ただの西島愁としていられる。
それが心地よかった。

──何かあった?

そう聞こうとして、言葉をのみ込む。
美咲にも彼女の生活があるし、仕事だって忙しいだろう。

それに──

先日の彩香とのやりとりが甦る。
十年前の身勝手な恋愛は、あまりにも多くの人を傷つけた。
ファンを。
メンバーを。
彩香を。
そして、美咲を。

もう一度トップを目指すと決めた今、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

今度こそ、自分の行動のすべてに責任を持たなければならない。

もし、美咲と並んで歩く姿を誰かに撮られたら。

もし、美咲が「西島愁の恋人」として世間で騒がれることになったら。

自分のせいで、十年前の彩香と同じような思いをさせてしまうかもしれない。

──だから、これでいい。

今はこれ以上、距離を詰めるべきではないと、自分に言い聞かせていた。