「今なら、何を言われても大丈夫。もう一度、あの時の続きをやり直したい」
「……ごめん」
愁の口から最初に出てきたのは、その言葉だった。
「……怒ってる?」
「怒る?何を?」
「あの時、愁から逃げたこと」
「怒ってないよ」
「本当?」
「うん。……というより、俺には怒る資格なんてないよ。あの頃の俺は、仕事も恋愛も何もかも中途半端だった。アイドルとしてどうなりたいかとか、彩香さんとのことをどうしたいとか、ちゃんと考えないまま突っ走って……彩香さんをあの騒動に巻き込んで苦しませた。彩香さんを守れなかったのは俺の責任だと思ってる」
「責任なんて感じなくていい。私が勝手に逃げただけだから。でも……」
でも、十年たった今でも、あの時の選択を後悔している。だから──
「もう一度チャンスが欲しいの」
彩香は、まっすぐに愁を見つめた。
「──俺、もう一度、アイドルとしてトップを目指すって決めたんだ」
静かに愁が答える。
「Bright Directionで、もう一度。
昔みたいに、じゃなくて、今の俺たちだからこそできる形で」
十年前、少しずつファンが離れ、グループの人気は低迷していった。
そのきっかけになったのは、間違いなく自分のあの報道だ。
自分自身がステージに立つ意味を見失い、辞めることを考えた時期もあった。
だからこそ。
もう一度、頂点を目指す。
それは愁がようやく見つけた答えだった。
「だから、今は……恋愛よりそれを優先したい」
「──好きな人、いないの?」
聞かれて、愁の頭に、ひとりの女性が浮かんだ。
──美咲さん。
けれど、浮かんだその名前をすぐに打ち消す。
今はまだ、恋愛よりも優先したいことがある。
そして、何より、十年前のように、自分のせいで誰かを傷つけることはしたくなかった。
「……いないよ」
彩香は愁の顔をじっと見つめた。
「……嘘つくのが下手なのは変わってないのね」
「……」
彩香は小さく笑った。
「でも、私も諦められないから」
「彩香さん……」
「愁がトップを目指すなら、それを近くで支えたい」
「でも、それは……」
「十年前の二の舞にはならない」
彩香は自分に言い聞かせるように続けた。
「大丈夫。仕事はちゃんとする。ドラマだって成功させる。愁がトップになるのを全力で後押しするから。今度はちゃんと愁の力になりたいの。──都合がいいことを言ってるのはわかってる。でも、ずっと後悔しながら生きていくのはいやなの」
だから……
「もう一度、私にチャンスをちょうだい」
愁は何も言えなかった。
「今度は、逃げないから」
そう言い残して去っていく彩香に、愁は、何も声をかけることができなかった。
十年前。
確かに彩香のことがどうしようもなく好きだった。
あの頃の気持ちは嘘じゃない。
けれど、それはもう過去のことだ。
今の愁の中に、彩香への恋愛感情はない。
それでも。
強く拒めないのは、あの時、自分の未熟さが彼女を傷つけた、という思いが残っているから。
これ以上、傷つけたくない。
だからといって、気持ちに応えることはできない。
そんな矛盾を抱えたまま、彩香が去っていった方向をしばらく見つめていた。
「……ごめん」
愁の口から最初に出てきたのは、その言葉だった。
「……怒ってる?」
「怒る?何を?」
「あの時、愁から逃げたこと」
「怒ってないよ」
「本当?」
「うん。……というより、俺には怒る資格なんてないよ。あの頃の俺は、仕事も恋愛も何もかも中途半端だった。アイドルとしてどうなりたいかとか、彩香さんとのことをどうしたいとか、ちゃんと考えないまま突っ走って……彩香さんをあの騒動に巻き込んで苦しませた。彩香さんを守れなかったのは俺の責任だと思ってる」
「責任なんて感じなくていい。私が勝手に逃げただけだから。でも……」
でも、十年たった今でも、あの時の選択を後悔している。だから──
「もう一度チャンスが欲しいの」
彩香は、まっすぐに愁を見つめた。
「──俺、もう一度、アイドルとしてトップを目指すって決めたんだ」
静かに愁が答える。
「Bright Directionで、もう一度。
昔みたいに、じゃなくて、今の俺たちだからこそできる形で」
十年前、少しずつファンが離れ、グループの人気は低迷していった。
そのきっかけになったのは、間違いなく自分のあの報道だ。
自分自身がステージに立つ意味を見失い、辞めることを考えた時期もあった。
だからこそ。
もう一度、頂点を目指す。
それは愁がようやく見つけた答えだった。
「だから、今は……恋愛よりそれを優先したい」
「──好きな人、いないの?」
聞かれて、愁の頭に、ひとりの女性が浮かんだ。
──美咲さん。
けれど、浮かんだその名前をすぐに打ち消す。
今はまだ、恋愛よりも優先したいことがある。
そして、何より、十年前のように、自分のせいで誰かを傷つけることはしたくなかった。
「……いないよ」
彩香は愁の顔をじっと見つめた。
「……嘘つくのが下手なのは変わってないのね」
「……」
彩香は小さく笑った。
「でも、私も諦められないから」
「彩香さん……」
「愁がトップを目指すなら、それを近くで支えたい」
「でも、それは……」
「十年前の二の舞にはならない」
彩香は自分に言い聞かせるように続けた。
「大丈夫。仕事はちゃんとする。ドラマだって成功させる。愁がトップになるのを全力で後押しするから。今度はちゃんと愁の力になりたいの。──都合がいいことを言ってるのはわかってる。でも、ずっと後悔しながら生きていくのはいやなの」
だから……
「もう一度、私にチャンスをちょうだい」
愁は何も言えなかった。
「今度は、逃げないから」
そう言い残して去っていく彩香に、愁は、何も声をかけることができなかった。
十年前。
確かに彩香のことがどうしようもなく好きだった。
あの頃の気持ちは嘘じゃない。
けれど、それはもう過去のことだ。
今の愁の中に、彩香への恋愛感情はない。
それでも。
強く拒めないのは、あの時、自分の未熟さが彼女を傷つけた、という思いが残っているから。
これ以上、傷つけたくない。
だからといって、気持ちに応えることはできない。
そんな矛盾を抱えたまま、彩香が去っていった方向をしばらく見つめていた。

