担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

ドラマの初回放送日。

美咲は一人でテレビの前に座っていた。

画面に、愁が映る。

けれど、もう十年前のように「SYU」だけを追いかけているわけではない。

画面の向こうにいるのは、俳優として役を生きている西島愁だった。

台詞を言う。
笑う。
泣く。

その一つ一つに、これまで積み重ねてきた時間が滲んでいるように見えた。

ドラマが終わっても、美咲の意識はドラマの中に取り残されていた。

しばらくして、スマホを手に取ると、SNSには、ドラマの感想とともに、愁に関するコメントが溢れていた。

――西島愁、演技うますぎじゃない?。

――この人、こんな顔するんだ。

――正直、名前は知ってたけど、ちゃんと見たの初めてかも。

――SYUって、Bright Directionの人だよね!?後で曲も聴いてみようかな。

――今までちゃんと知らなかったのがもったいない。

その言葉を、一つ、また一つと読み進める。

胸の奥が、じんわりと熱くなった。

十年前。
あんなにたくさんの人が、愁のことを応援していた。

けれど、熱愛報道を境に、少しずつ人が離れていった。

グループからも、愁自身からも。

それでも。

なくなったわけじゃなかった。

歌も。
踊りも。
愁が積み重ねてきた時間も。

ただ、知られる機会が減っていただけだった。

今、もう一度。

愁の名前が、知らない誰かの画面に流れている。

Bright Directionの曲が、誰かのプレイリストに加わっていく。

美咲は、画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。

――よかった。

スマホを伏せる。

そして、もう一度テレビを見る。

そこには、さっきまで愁がいた。

「……おかえりなさい」