美咲が書いた小説、『プリズム』のドラマ化が正式に決まったのは、秋の気配が濃くなり始めた頃だった。
映像化の話が出ている──そのことは以前から出版社を通じて聞かされていたものの、美咲はどこか現実味のない話として受け止めていた。
それが、ここにきて一気に、具体的に動き始めた。
あわせて、美咲はもう一つの知らせを聞いた。
主演――西島愁。
胸の奥で、何かが弾けた。
嬉しい。
でも、怖い。
そして、なぜだか予感がした。
確信めいた予感。
また、この人が光の中へ戻っていく。
撮影準備が始まってからの愁は、驚くほど真剣だった。
台本を読み込み、演技を研究する。毎朝、現場へ向かう前には必ずベランダに出て深呼吸をする。
美咲は自分の部屋の窓越しに、その横顔をそっと見つめていた。
声をかけることはない。
ただ、心の中で願う。
――頑張って。
原作者として、美咲も時々現場に足を運ぶようになった。
現場で見る愁は、これまで美咲が知っているどの愁とも違っていた。
スタッフの指示に真剣に耳を傾け、監督とは何度も演技について話し合う。
納得できない場面があれば、自分から
「もう一度、お願いします」
と頭を下げる。
そんな愁の姿を見るたびに、美咲の胸には小さな驚きが広がった。
自分の知らなかった一面を少しずつ知っていく。それが嬉しかった。
ある日の撮影の合間、愁が台本を片手に、美咲のところへやってきた。
「美咲さん、このシーンなんだけど……」
そう言って、愁は台本の一ページを開いた。
そこには、愁が演じる主人公、信吾が葛藤するシーンが描かれていた。
「この時、信吾は本当は怖かったんだと思うんだけど……あってる?」
「はい。でも、そう思ってることを誰かに知られるのは嫌だった……」
愁は、台本に視線を落としたまま、小さく頷いた。
「そっか。じゃあ、そこを意識してみる。ありがとう」
そう言って、愁は撮影に戻っていった。
美咲は、その背中を静かに見つめる。
自分が書いた物語を、愁が演じようとしている。
そんな日が来るなんて、かつては想像もしていなかった。
嬉しい。
──でも、怖い。
近いうちにきっと、この人はたくさんの人に認められる場所へ戻っていく。
愁にはもう一度輝いてほしい。
そう願う気持ちは本当だ。
なのに――。
そうなったら、また私たちの関係も変わってしまう。
美咲は、胸の奥に小さな痛みを感じた。
映像化の話が出ている──そのことは以前から出版社を通じて聞かされていたものの、美咲はどこか現実味のない話として受け止めていた。
それが、ここにきて一気に、具体的に動き始めた。
あわせて、美咲はもう一つの知らせを聞いた。
主演――西島愁。
胸の奥で、何かが弾けた。
嬉しい。
でも、怖い。
そして、なぜだか予感がした。
確信めいた予感。
また、この人が光の中へ戻っていく。
撮影準備が始まってからの愁は、驚くほど真剣だった。
台本を読み込み、演技を研究する。毎朝、現場へ向かう前には必ずベランダに出て深呼吸をする。
美咲は自分の部屋の窓越しに、その横顔をそっと見つめていた。
声をかけることはない。
ただ、心の中で願う。
――頑張って。
原作者として、美咲も時々現場に足を運ぶようになった。
現場で見る愁は、これまで美咲が知っているどの愁とも違っていた。
スタッフの指示に真剣に耳を傾け、監督とは何度も演技について話し合う。
納得できない場面があれば、自分から
「もう一度、お願いします」
と頭を下げる。
そんな愁の姿を見るたびに、美咲の胸には小さな驚きが広がった。
自分の知らなかった一面を少しずつ知っていく。それが嬉しかった。
ある日の撮影の合間、愁が台本を片手に、美咲のところへやってきた。
「美咲さん、このシーンなんだけど……」
そう言って、愁は台本の一ページを開いた。
そこには、愁が演じる主人公、信吾が葛藤するシーンが描かれていた。
「この時、信吾は本当は怖かったんだと思うんだけど……あってる?」
「はい。でも、そう思ってることを誰かに知られるのは嫌だった……」
愁は、台本に視線を落としたまま、小さく頷いた。
「そっか。じゃあ、そこを意識してみる。ありがとう」
そう言って、愁は撮影に戻っていった。
美咲は、その背中を静かに見つめる。
自分が書いた物語を、愁が演じようとしている。
そんな日が来るなんて、かつては想像もしていなかった。
嬉しい。
──でも、怖い。
近いうちにきっと、この人はたくさんの人に認められる場所へ戻っていく。
愁にはもう一度輝いてほしい。
そう願う気持ちは本当だ。
なのに――。
そうなったら、また私たちの関係も変わってしまう。
美咲は、胸の奥に小さな痛みを感じた。

