担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

「さっき、作家って孤独じゃないかって聞いたよね」
不意にそう言われて、美咲は顔を上げた。
「俺も最近、似たようなことを感じることがあって」
少し照れたように笑う。
「ライブなんかは、みんなで一つのものを作り上げてるって感覚なんだけど、曲を作るようになって、一人で戦ってるっていうか」
美咲は黙って耳を傾けた。
「誰かに相談することもあるけど、この言葉でいいのか、このメロディーでいいのかって最後には自分が決めないといけない」
少し間を置く。
「最近、俳優の仕事をもらえる機会も増えてきててさ。現場には監督もいるし、共演者もスタッフもたくさんいて、もちろんみんなで作り上げていくんだけど。でも、自分がその役をどう生きるかっていうところでは、結局、一人で向き合わなきゃいけない」
愁は、冷めたコーヒーの入ったカップを揺らした。
「だから、美咲さんが言ったこと、ちょっとわかる気がしたんだ」
「私が?」
「孤独がないと書けないってやつ」
愁は少し笑った。
「ああいう感覚、俺にも少しずつわかってきた気がする」
十年前には、きっと知らなかった孤独。
自分自身で答えを探さなければならない時間。
「辛くなる時もありませんか?」
「まあね。──でも、嫌じゃないんだ。全部、つながってると思うから」
その表情はどこか楽しそうだった。
「俺、もう一回、Bright Directionでトップを目指したいんだ」
美咲は黙って愁を見る。
「曲作りも、役者としての仕事も、グループの活動につなげられるものは何でもやりたい。10年前、俺は自分のことで精一杯だった。自分がやりたいこととか、自分の気持ちとか、そればっかり考えてた。……でも、あの時、もう一度隣に立たせてもらったことを、無駄にはしたくない」
「……個人の仕事が増えているのは、そのため?」
「うん」
愁は頷いた。
「もちろん、役者としても、音楽を作る人間としても、ちゃんと評価されたいって気持ちもあるよ。中途半端な気持ちでやるつもりはない」
一度言葉を切って、美咲を見る。
「でも、個人で得たものを全部Bright Directionに還元したいんだ。」
その言葉に、美咲の胸が熱くなった。
「グループとして、もう一度上を目指すなら、今までと同じことをしてるだけじゃ駄目だと思うから」
愁は少し遠くを見るような目をした。
「それぞれが外で経験して、知らなかった景色を見て、それを持ち寄って。そうやって、もう一回みんなで大きくなれたらいいなって。」
──だから、楽しい
そう言って笑った。

一人で何かを生み出すことの苦しさも。
その孤独の先にしか見えないものがあることも。
そんな感覚を愁と共有できる日が来るなんて、10年前には想像もしていなかった。

「……私も」
気づけば、言葉がこぼれていた。
「愁さんの作った曲、聴いてみたいです」
愁が目を瞬かせる。
「うん」
愁が笑った。
「いつか、聴いてほしい」

その約束は、十年前にはなかった、新しい関係の始まりのように思えた。

これから少しずつ形を変えていく、二人の新しい関係の始まり。

そんな気がした。