彼は煙草を取り出してから、火を点けて、少しだけ煙を吐いた。それから、煙草の箱を機材の近くへ置いて、ジッポを軽く握った。
「……特に参考にするようなモデルはいません」彼はそう言ったあとで、ジッポの蓋を開けたり閉めたりしていた。
彼の言い方は柔らかく聞こえたけど、どこか棘があるように思った。
「そうですか。では、曲を女性に贈ったり、書いたりしたことはありますか?」女性はそう言って、少し体を前へ出した。
だから、僕も姿勢を正して、携帯を強く握りしめた。
「ありません」彼は棒読みのように言った。けど、目の感じがおかしい。
「でも、書いてほしいと言われたことくらい、あるんじゃないですか?」と、女性は少し笑いながら彼を見ていた。
「いいえ、一度も」彼は区切るように応えた。けど、やっぱり目が据わってる。
携帯を握った手が汗ばんで、熱くなって、どうしようもなかった。
「そうですか。では、今日はこの辺にしましょう……」
女性が言った時、やっと息ができて、思いっきり空気を吸ったり吐いたりした。でも……。
「お昼ですし、このあと、お食事でもどうですか? いい店を知ってますので、ご案内します」
明るくなった女性の声を聞いて、『そういうことか……』と、すごく嫌な気分になった。
そしたら彼が、「結構です。もう済ませてあるので……」と言って、煙を吐き出してから、煙草を灰皿で擦るように消して、煙草の箱を持った。
僕も、それ以上はやめておけと言いたかったけど、口を出す権利はない。出来ることといえば、女性が騒いだときに、携帯を向けるだけ。鍛えていても、手は出せないし、言葉で説得なんて、もっと無理だ。何か手立てはないかと必死に考えていた。
「それじゃあ、近くのカフェに行きませんか?」
断られてもなお、女性は明るい声で彼を誘った。
『やめろ』と何度も頭の中にあったけど、二人を見てるしかなかった。
「お断りしています。というか、口を慎んだらいかがですか……」そう言って彼は、テーブルの上に煙草の箱とジッポを置いた。
その時に、僕は初めて、ボイスレコーダーの存在に気がついた。
女性はすぐに機械を手に取って、鞄の中へ押し込むように入れながら、「では、失礼します」と言って、席を立った。
「それと、この仕事、捨てます」彼の声は柔らかいままだったけど、意思はしっかりと伝わっていた。
女性は少し立ち止まってから、逃げるように個室を出ていった。
「……特に参考にするようなモデルはいません」彼はそう言ったあとで、ジッポの蓋を開けたり閉めたりしていた。
彼の言い方は柔らかく聞こえたけど、どこか棘があるように思った。
「そうですか。では、曲を女性に贈ったり、書いたりしたことはありますか?」女性はそう言って、少し体を前へ出した。
だから、僕も姿勢を正して、携帯を強く握りしめた。
「ありません」彼は棒読みのように言った。けど、目の感じがおかしい。
「でも、書いてほしいと言われたことくらい、あるんじゃないですか?」と、女性は少し笑いながら彼を見ていた。
「いいえ、一度も」彼は区切るように応えた。けど、やっぱり目が据わってる。
携帯を握った手が汗ばんで、熱くなって、どうしようもなかった。
「そうですか。では、今日はこの辺にしましょう……」
女性が言った時、やっと息ができて、思いっきり空気を吸ったり吐いたりした。でも……。
「お昼ですし、このあと、お食事でもどうですか? いい店を知ってますので、ご案内します」
明るくなった女性の声を聞いて、『そういうことか……』と、すごく嫌な気分になった。
そしたら彼が、「結構です。もう済ませてあるので……」と言って、煙を吐き出してから、煙草を灰皿で擦るように消して、煙草の箱を持った。
僕も、それ以上はやめておけと言いたかったけど、口を出す権利はない。出来ることといえば、女性が騒いだときに、携帯を向けるだけ。鍛えていても、手は出せないし、言葉で説得なんて、もっと無理だ。何か手立てはないかと必死に考えていた。
「それじゃあ、近くのカフェに行きませんか?」
断られてもなお、女性は明るい声で彼を誘った。
『やめろ』と何度も頭の中にあったけど、二人を見てるしかなかった。
「お断りしています。というか、口を慎んだらいかがですか……」そう言って彼は、テーブルの上に煙草の箱とジッポを置いた。
その時に、僕は初めて、ボイスレコーダーの存在に気がついた。
女性はすぐに機械を手に取って、鞄の中へ押し込むように入れながら、「では、失礼します」と言って、席を立った。
「それと、この仕事、捨てます」彼の声は柔らかいままだったけど、意思はしっかりと伝わっていた。
女性は少し立ち止まってから、逃げるように個室を出ていった。

