その青は沈む

 そして、夏祭りの出店を見て歩いて、妹はリンゴ飴と綿あめを買って、少しはしゃいでいた。隣で彼は妹の綿あめを持って、妹の口に入りそうな髪を、優しくかき上げた。二人の姿はどこから見ても自然な恋人同士だった。

 公園には出店がたくさん並んでいて、人も多かったけど、彼は妹が人や物にぶつからないように、常に目配せをしていた。それを見ていたら、僕より彼のほうが刑事役に向いてるんじゃないかと思った。

 そんなことを考えてるうちに、雑貨を置いた出店の前で、妹は足を止めた。何か欲しい物があるのかなと思って、妹の視線を追ってみる。そしたら、そこには小さい万華鏡が付いたストラップが置かれていた。けど、妹は迷ってるみたいだった。

 僕は財布を取り出して、店番のおじさんに聞こうとしたら、妹が「お兄ちゃん、いいよ。私買うから」と言って、財布からお札を出して、おじさんに渡した。そして、ストラップを僕に向けて、「はい、どうぞ」と言って笑った。

「ありがと」そう言ったけど、妹に聞こえてるのか分からなかった。

 初めて貰ったような感覚に、少しずつ嬉しさが追いついてきた。多分、いま僕はとても優しい目をしてる気がする。だって、そこには何よりも大事な人がいるから……。

 三人で公園内を回ったあとで、妹はベンチを見つけて、そこに座った。僕たちはそれを見てから、すぐそばにあったブランコに座った。

 僕は軽く揺らしながら、前を見ていた。そしたら、煙草の煙が流れてきた。

「結婚、したの?」小さめの声で聞いた。

「その予定だ」彼は煙草をくわえて、膝に肘をついて、頬杖をついた。

「僕、何も聞いてないけど」少し怒ったふりをした。

「言ってないから、当然だ」彼は変わらない。

「一応、兄、なんですけど」と一語だけ強めて言ってみた。

「だから、なんだ」そう言って彼は煙草を吸って、長い煙を吐き出した。

「普通、挨拶とかあるだろ」軽く声を荒げた。

「例えば?」彼は平然と聞いてくる。

「例えば、俺に『妹さんをください』とか、あるだろ」僕は思いつかなくて、聞きかじりのことを言った。

「お前はそれでいいのか」そう彼は聞いてきた。

 僕は何を聞きたくて、何を言いたかったのか、分からなくなりそうだった。

「いや、そうじゃなくて……、籍を入れるなら、絶対僕が証人になりたいし、式を挙げるなら、僕が柚月の手を取る」
 そう言ったあとで、後悔はなかった。

「当たり前だろ、他に何かあるのか」彼はブランコを跨いで、僕のほうを向いた。

「もし、お前が、柚月を泣かしたときは、絶対に殴らせろ」
 僕は彼から目を逸らさずに伝えた。

 そしたら、彼は一つだけ頷いてみせた。息を吐いて、元の体勢に戻ってから、すぐに煙草を吸った。