君のとなり〜拓実と〜

 年が明けた。

 今年も、拓実と初詣に来た。

 境内は、たくさんの人で賑わっている。

「瑠夏」

「ん?」

「ちょっとこっち」

 拓実に手を引かれて、お守りが並んでいる場所へ向かう。

「どうしたの?」

「お守り、選ぼうと思って」

「お守り?」

「うん」

 拓実が並んでいるお守りを見渡す。

「去年、瑠夏が俺に選んでくれただろ?」

「……覚えてたの?」

「忘れるわけないじゃん」

 そう言って、拓実が笑う。

「今年は俺が選ぶ」

「……私に?」

「うん」

 拓実がひとつのお守りを手に取った。

「これ」

 差し出されたのは、合格祈願のお守りだった。

「……ありがとう」

 受け取ったお守りを、そっと両手で包む。

「去年、私が拓実に選んだから?」

「それもあるけど」

 拓実が少しだけ照れたように笑う。

「瑠夏に持っててほしかったから」

「……拓実」

「試験の日も、ちゃんと持ってて」

「うん」

「俺の代わりに、そばにいるから」

「ふふっ」

「何?」

「なんか、拓実らしいなって思って」

「そう?」

「うん」

 お守りを胸元に抱える。

 去年、私が選んだお守り。

 今年は、拓実が私のために選んでくれた。

 それだけで、胸の奥がぽっと温かくなった。

「じゃあ、帰ろうか」

「うん」

 繋いだ手を、拓実がぎゅっと握る。

 冷たい空気の中。

 その手だけが、ぽかぽかしていた。

     *

「送ってくれて、ありがとう」

「うん」

 家の前まで来る。

「じゃあ、またね」

「うん。また連絡する」

 拓実が手を振る。

 私も手を振り返して、玄関へ向かおうとした。

「瑠夏」

「ん?」

「あけましておめでとう」

「ふふっ。今?」

「ちゃんと言ってなかったから」

「……あけましておめでとう、拓実」

「今年もよろしく」

「うん。今年もよろしくね」

 笑い合って、私は玄関のドアに手をかけた。

 そのとき――。

「あら、拓実くん?」

 母が玄関まで出てきた。

「あけましておめでとうございます」

 拓実が笑顔で頭を下げる。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「はい」

「拓実くん、寒かったでしょう?」

「大丈夫です」

「よかったら、上がっていかない?」

「え?」

「お雑煮、食べていって」

「……いいんですか?」

「もちろん」

 母がにこっと笑う。

「ちょうど作ったところだから」

 拓実が私を見る。

 私は笑って頷いた。

「食べていこうよ」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「どうぞ」

 拓実が玄関に上がる。

 その横顔が、ほんの少しだけ緊張している。

「拓実、緊張してる?」

「……ちょっとだけ」

「ふふっ」

「だって、初めてだし」

「大丈夫だよ」

「うん」

 靴を脱いで、私の後ろをついてくる。

 でも――。

「お父さん、拓実くん来たよ」

「おう。拓実くん、あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます」

「まぁ、座れ座れ」

「はい」

 父のその一言に、拓実の表情がふっと柔らかくなる。

「瑠夏、そこ座って」

「うん」

 私の隣に拓実が座る。

 さっきまで少し固かった肩の力も、もう抜けていた。

「お雑煮、できたわよ」

「ありがとうございます」

「はい、どうぞ」

「いただきます」

「いただきます」

 二人で手を合わせる。

 拓実がお雑煮を一口食べて――。

「……美味しいです」

「ほんと? よかった」

 母が嬉しそうに笑う。

「お餅、もう一つ食べる?」

「あ、お願いします」

「ふふっ。はい」

「ありがとうございます」

 そのやり取りに、思わず笑ってしまう。

「何?」

 拓実が私を見る。

「ううん。なんか嬉しいなって」

「何が?」

「拓実がここにいるの」

「……俺も」

 拓実が小さく笑う。

 その笑顔を見ていると、心までふわっと温かくなる。

「拓実くん、関東での生活はどう?」

 母が尋ねる。

「どうって?」

「大変じゃない? こっちとは違うでしょう?」

「最初はちょっと大変でしたけど、もう慣れました」

「そう。よかった」

「大学も楽しい?」

「はい。友達もできましたし」

「それなら安心ね」

 父も頷く。

「一人暮らしにも慣れたか?」

「はい。なんとか」

「そうか」

 いつの間にか、拓実もすっかり自然に笑っている。

 さっきまでの緊張なんて、もうどこにもない。

 私はその横顔を眺めながら、ふふっと笑った。

「瑠夏も、来年は――」

「お母さん」

 思わず遮る。

「あら」

 母が私を見る。

「……ふふっ」

 何も言わずに、母が笑った。

 私も小さく笑う。

 拓実は、何も知らないままお雑煮を食べている。

 そのことが、なんだか少しおかしくて。

「拓実くん、お餅もう一つ食べる?」

「はい」

「ふふっ。いっぱい食べてね」

「ありがとうございます」

 お正月の朝。

 家の中には、湯気と笑い声が広がっている。

 その中に拓実がいる。

 それだけで――。

 なんだか、幸せだった。