君のとなり〜拓実と〜

 そのメールは、突然届いた。

『瑠夏、ゴールデンウィークに帰るよ』

『本当に?』

送った直後、スマホが鳴った。

拓実からの着信。

「もしもし?」

『瑠夏?』

「拓実……」

久しぶりに聞く、拓実の声。

たった数週間なのに。

その声が、ずっと遠くにあったように感じていた。

『……声、聞きたかった』

「……私も」

声を聞いただけなのに、涙が出そうになる。

『瑠夏に会いたい』

その一言に、胸がきゅっと締めつけられた。

「……うん」

『だから、ゴールデンウィークに帰る』

「……嬉しい」

『瑠夏の予定、ちゃんと聞いておきたいんだ』

「うん」

私は拓実に、ゴールデンウィークの予定を話した。

『私、三日に青葉カップがあるの』

『わかった。それまでには帰るよ』

その言葉に、胸が高鳴った。

去年の五月。

青葉カップ。

あの日、私はボールを落とした。

結果は――二位。

悔しくて、泣いた。

でも、拓実がそばにいてくれた。

そして今年。

拓実は関東にいる。

それでも――

私のいる場所まで、会いに帰ってきてくれる。

「今年は……絶対落とさない」

そう言うと、

『うん』

『瑠夏ならできる』

胸の奥が、じんわり熱くなる。

『ねえ、拓実』

『ん?』

「帰ってきたら……ずっと一緒にいてくれる?」

少しだけ間があった。

『うん』

その返事が、優しく胸に響く。

『会えなかった分、いっぱい一緒にいたい』

「……私も」

『瑠夏の顔、近くで見たい』

「電話じゃ、だめ?」

『だめじゃない。でも……やっぱり直接見たい』

「……私も、拓実に会って、ちゃんと顔見たい」

『じゃあ、いっぱい見て』

「え?」

『俺のこと。会えなかった分』

思わず笑ってしまう。

「そんなに見たら、恥ずかしいよ」

『俺は瑠夏のこと、ずっと見てると思う』

「……もう」

電話の向こうで、拓実が笑う。

その声を聞いているだけで、胸が温かくなる。

『早く会いたいな』

「うん……早く会いたい」

『会ったら、最初に抱きしめる』

「……うん」

『思いっきり』

「私も、思いっきり抱きつく」

『約束』

「約束」

去年の悔しさを、今年は絶対に晴らしたい。

そして――

もう一度、拓実に見てほしい。

頑張っている私を。

笑っている私を。

「……待ってるからね、拓実」

スマホを胸に抱きしめる。

ゴールデンウィークが――

待ち遠しくなった。



そして――拓実が帰ってくる日。

私は、新幹線の駅の改札前で拓実を待っていた。

何度も時計を見る。

まだかな。

早く会いたい。

逸る気持ちを抑えながら、私は改札の向こうを見つめていた。

やがて、人の波の中に見慣れた栗色の髪が見えた。

「……拓実」

胸が、大きく跳ねる。

目が合った。

拓実が笑った。

その瞬間、もう我慢できなかった。

私は駆け寄る。

「拓実……!」

「瑠夏」

次の瞬間――

ぎゅっ、と抱きしめられた。

久しぶりの腕の中。

久しぶりの温もり。

ずっと欲しかった場所だった。

「……会いたかった」

拓実の声が、耳元で響く。

「私も……会いたかった」

それだけ言うのが精いっぱいだった。

拓実の腕に、さらに力がこもる。

私も拓実の背中に回した手に、さらに力を込めた。

しばらくして、拓実が少し身体を離した。

そして、私の顔をじっと見る。

「……瑠夏、ちょっと痩せた?」

「え?」

思わず自分の頬に触れる。

「そうかな?」

「うん。前より細くなった気がする」

「新体操、頑張りすぎたかな」

笑ってみせると、拓実は少しだけ眉を寄せた。

「……頑張りすぎないで」

「大丈夫だよ」

「本当に?」

「うん」

拓実は私の顔を見つめたまま、ふっと優しく笑った。

「ならいいけど」

そして、もう一度私を抱きしめる。

「……ずっと、瑠夏を抱きしめたかった」

その言葉に、胸がいっぱいになった。

離れていた時間が、嘘みたいに消えていく。



その日は、久しぶりに二人で街を歩いた。

高校生の頃は、学校と部活で毎日が終わっていた。

こうして二人で街を歩くことさえ、なんだか新鮮だった。

並んで歩いていると、拓実が私の手を取った。

「……手、繋ぐ?」

「うん」

指を絡める。

拓実の手の温かさが、じんわり伝わってくる。

それだけなのに、嬉しくて仕方なかった。

「……なんか、変な感じ」

「何が?」

「こうして拓実と歩いてるの」

「俺は、すごく嬉しいけど」

「私も……すごく嬉しい」

拓実が握った手に、少しだけ力を込める。

「離れてる間、ずっとこうしたかった」

その言葉に、胸が熱くなった。

しばらく歩いていると、私はそっと拓実の腕に手を回した。

「瑠夏?」

「……こうしてみたかったの」

拓実が少し驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑った。

「うん。いいよ」

そのまま、二人で歩く。

拓実の腕に頬が近づく。

肩が触れるたびに、胸がくすぐったくなる。

「……瑠夏」

「ん?」

「今日、離れたくないな」

「……私も」

「じゃあ、もう少しこのままでいよう」

「うん」

高校生だった頃にはしなかったことを、今は少しずつできるようになっていた。

夕方。

帰る時間が近づく。

楽しい時間は、どうしてこんなに早いんだろう。

駅へ向かう道で、拓実がふいに足を止めた。

「瑠夏」

「ん?」

振り向く。

拓実が、優しく私を見つめていた。

「……どうしたの?」

「会えなかった分、ちゃんと顔見ておきたい」

「もう……ずっと見てるじゃん」

「足りない」

そう言って、拓実が一歩近づく。

胸が高鳴った。

拓実の手が、そっと私の頬に触れる。

「……痩せたの、やっぱり心配」

「大丈夫だよ」

「でも、会えなかった分まで、ちゃんと大事にしたい」

その言葉に、胸がいっぱいになる。

次の瞬間――

そっと、唇が重なった。

久しぶりのキス。

触れるだけの、優しいキスだった。

離れたあとも、拓実の顔がすぐ近くにある。

「……久しぶり」

「うん……」

「ずっとしたかった」

「……私も」

もう一度、今度は少し長く唇が重なる。

離れたあと、拓実が私の額に自分の額をそっと寄せた。

「帰ってきてよかった」

「私も……会えてよかった」

「瑠夏」

「ん?」

「好き」

離れていた時間が長かったからなのか、その言葉がいつもより胸の奥まで届いた。

「……私も、大好き」

拓実が嬉しそうに笑う。

「やっぱり、直接聞くと嬉しい」

「電話でも言ってたでしょ」

「うん。でも、今は目の前に瑠夏がいるから」

そう言って、また私の手を握る。

繋いだ手を、もう一度ぎゅっと握る。

「青葉カップ、頑張って」

「うん。今度は絶対、優勝する」

「俺、ちゃんと見てるから」

その言葉に、私は笑った。

今度は、嬉し涙が出そうだった。