君のとなり〜拓実と〜

 文化祭も終わり、後夜祭が始まっていた。

 校庭から聞こえてくる歓声を背に、拓実と私は屋上へ向かった。

 階段を上りきると、夜の風がふわっと頬を撫でる。

「気持ちいいね」

「うん」

 フェンスの向こうには、後夜祭で賑わう校庭が見える。

 以前、二人でお弁当を食べた場所。

 今では、私にとっても拓実にとっても、大切な場所になっていた。

 私はポケットの中の小さな箱を、そっと握りしめた。

「拓実」

「ん?」

「これ……」

「これ」

「……?」

「一年記念」

「え……」

 拓実が驚いた顔をする。

「開けていい?」

「うん」

 箱を開けた拓実が、少し驚いた顔をする。

「……ありがとう」

「気に入った?」

「もちろん」

 拓実が嬉しそうに笑う。

 その笑顔を見て、私も笑った。

「大事に使う」

「うん」

 拓実が手の中のプレゼントを眺める。

 私が選んだのは、少し上質なボールペン。

 一年分のありがとうを、形にしたかった。

「じゃあ、今度は俺の番」

「え?」

 拓実がポケットから、小さな箱を取り出した。

「一年記念」

「……私にも?」

「うん」

 受け取った箱を開ける。

 中には、細いブレスレット。

 小さなリボンのモチーフがついていた。

「可愛い……」

「気に入った?」

「うん。すごく」

 嬉しくて、何度も眺める。

 拓実が、私の手首に視線を落とした。

「そのリボン、体育祭のときのことを思い出して選んだんだ」

「体育祭……?」

「うん。あのとき、俺のハチマキを瑠夏の頭に結んで、瑠夏のハチマキを俺の手首に結んだだろ」

「……うん」

 あの日の光景が蘇る。

 みんなの前で、私が拓実の手首にハチマキをリボン結びした。

 拓実が優しく笑う。

「あのときみたいに、これからもずっと繋がっていられたらいいなって思って」

 胸の奥が、じんと熱くなる。

「だから、リボンにした」

「……拓実」

「気に入ってくれた?」

「うん。すごく」

 拓実はブレスレットを私の手首に持っていく。

「手、出して」

「うん」

 拓実の指が、私の手首に触れる。

 ゆっくりとブレスレットを留めてくれた。

 小さなリボンが、手首で揺れる。

「……どう?」

「可愛い」

「よかった」

 私は嬉しくなって、拓実を見る。

「ありがとう」

「うん」

 そのとき。

 校庭から歓声が上がった。

 パンッ。

 夜空に花火が上がる。

「わぁ……!」

 思わず空を見上げる。

 後夜祭の音楽が、屋上までかすかに届いてくる。

 Mrs. Pineappleの『点々の唄』。

 優しいメロディーと花火の音が重なっていく。

「綺麗……」

「うん」

 花火に夢中になっていた、そのとき。

 ふわっと、背中から温かいものに包まれた。

「……拓実?」

 拓実の腕が、私のお腹の前で重なる。

 背中に伝わる体温。

「ん?」

「びっくりした」

「驚かせた?」

「……ううん」

 私は拓実の腕に、そっと手を重ねた。

「このまま見よう」

「うん」

 二人で花火を見つめる。

 拓実の胸に背中を預けると、なんだか安心する。

 しばらく、何も言わなかった。

 ただ花火を見ていた。

「……瑠夏」

「ん?」

「振り向いて」

「どうしたの?」

 私は身体を反転させる。

 拓実と目が合った。

 いつもより近い距離。

 拓実が少しだけ照れたように笑う。

「……キスしたい」

「……っ」

 胸が大きく跳ねた。

「……うん」

 小さく頷く。

 拓実の手が、そっと私の頬に触れる。

 そして――

 唇が重なった。

 優しく。

 ゆっくり。

 一年分の幸せを確かめるようなキス。

 離れたあとも、拓実はすぐには離れなかった。

 額をそっと寄せる。

「……好きだよ、瑠夏」

「私も……」

 また花火が夜空に咲く。

 その光の中で、二人は笑った。

 手首には、小さなリボン。

 体育祭の日に結んだハチマキから繋がった、二人だけの記念。

 今年の文化祭は――

 恋人として迎えた、特別な一日になった。