溺愛、しないで


「やだ……!」


「おまえ……やわらけ……」


「ひゃ!どこ触っ……!っやだ!」


「うるせえな……恋人なんだからくっついて寝るのは当たり前だろ」


恋人!?恋人ってまさかこの人青島さん!?


え、なんでこんなことになってるの!?


「違います、勘違いしてます!」


「だあから、まだ夜明けくらいだっつの」


全然会話にならない!!


「もう、離してってばあ!」


「あんまり騒ぐと銭次が入ってくる。面倒だからもう黙れ」


「銭次さーん!!」


「呼んだっスか?」


ああぁぁー!!


独特な喋り方と、聞き覚えのある軽薄(けいはく)な声。


私はこの状況を変えてくれるなら誰でも良かったが、まさか彼が入ってくるとは思わずに言葉を失った。


小さな電子音の後、部屋の明かりがつくが、そこで見えたのはやはりどう足掻(あが)いてもあの男で、私は数秒前の自分の愚行(ぐこう)をこれでもかというほど悔いた。


なんでだよ……!


「銭次、電気消して出てけ。俺達はまだ寝る」


「ちが、寝なっ……!」


体を起こそうとすると簡単に押さえ込まれてしまうため、私は唯一空いている左手で彼の胸板を押し返したが、突然そこから痺れるような痛みが広がり強く眉を寄せた。


「っい゛……!」


「っ馬鹿、怪我してること忘れてんじゃねえ!」


焦ったような声と共に、勢いよく起き上がった彼に手を掴まれる。


そこでちゃんと見た自分の左手首には包帯が巻かれており、きちんと手当てされていることを知った。


彼は寝癖でこめかみの毛が跳ねているが、それを除けば真剣に心配しているような雰囲気が伝わり、私は腑に落ちないような変な気持ちになった。


こうなる原因を作ったのは間違いなくこの男だからである。


私はそれを表に出さないよう苦心(くしん)しながら、さりげなく相手の手を振り払う。


「いっちゃんどうしたんスか?まだ朝方っスけど」


いっちゃん……?


「いやあの……もう帰るので案内を……」


「え?帰れるわけないじゃないスか」


「え?」


「ぶはっ!まさか帰れると思ってたんスかあ!?あははは!!」