溺愛、しないで


──ふと目を覚ます。


ゆっくりと意識が覚醒していくが、何度瞬きをしても暗闇に包まれており、起きて早々頭の中が「?」で埋まった。


掛け布団がかけられている。

今いる場所はベッドみたいだ。

私はそこでようやく、気絶したことを思い出した。


恐る恐る軽く体を起こして辺りを見渡してみるが、灰色のスーツを着たあの男はいないようだった。


彼は黙っていれば本当にただのイケメンにしか見えなかった。


金髪に左右で目の色が違うオッドアイ。


加えてタレ目のせいもあってか、雰囲気が柔らかく接しやすそうという印象が一番最初に入ってくるような人。


しかしその裏で見せたのは、あの裂けたような笑み。


私は思い出して怖くなり布団の中に潜り直すが、こうしていても何も変わらない。


覚悟を決めて体を起こそうとして──スプリングについた手を誰かに掴まれ、私は大きく肩を跳ねさせて声をあげそうになり、


「っき、んんっ!!」


──口を塞がれ、その中で悲鳴が溶けた。


何が起きているのか分からないまま、横から伸びてきた手に体ごと引っ張られてベッドに戻される。


誰かも分からない腕の中、声を出せずに体を強張(こわば)らせていると、次第に寝息のような声が聞こえてくる。


隣で、誰かが寝ている。


嘘!嘘……!!


目を凝らしてみるが、未だに暗闇に慣れないせいで何も分からない。


はやる心臓を押さえつけ、尚もベッドから降りようと試みるが、足を絡め取られて動かせなくなる。


私は耐えられず、相手の肩を押し返した。


「や、は、離してください……!」


「……多分まだ外は朝の五時ぐらいだ。寝てろ」


「!?ち、ちが、離し」


「分かった分かった。起きたらたくさん構ってやる……可愛い奴だな」


いや何の話!?


寝起き特有の(かす)れた声。


男性にしても低いその声を聞き、私は必死で記憶を探るが声だけでは思い出せない。


スーツの男と一緒にいた人が脳裏に浮かぶが、完全にその人だと言える自信はなかった。


と、とにかくこんなの無理……!