溺愛、しないで


「──目え覚めちまったし丁度いい、俺の部屋の方に移動するか。こんな狭いベッドじゃ何もできやしねえ」


斬人がそう言ってベッドから降りていく。


辺りは医療用パーテーションで仕切られているため他には何も見えないが、気絶する前に見た壁と同じ壁だということに私は今更ながら気付いた。


二人を目で追っていると、先に立った斬人が呆れたように見下ろしてくる。


「お前も来るんだよ。話聞いてたか?」


いやそりゃあ話の流れ的に分かってたし聞いてたけどこの人の思い通りにテキパキ動くなんてなんか癪じゃん。


青島さんの言い方にもイラつき、私はすぐ青島さんから目を逸らして、かかっていた布団を乱暴に退かした。


「……」

「……ク、ふっ」


何故か吹き出した銭次の方は意識して見ないようにして、シーツと擦れてしわくちゃになっていたスカートを手で軽く直してからローファーにつま先を通す。


その横には自分の鞄が置いてあった。


私は鞄も一緒に持っていこうと手を伸ばしたが、それよりも先に青島さんに鞄を取られてしまう。


「え、盗ま……」


「誰がこんな小汚ねえ鞄盗るか!手、怪我してんだろうが」


あ、そういう……青島さんってそういう所は考えられる人なんだ……っていやいや、この人極悪人だから!!


頭を抱えたくなる衝動を押し殺し、私は部屋を出ていく二人の後を小走りで追いかけた。


──病院着を着て、スクールバッグを肩にかけて歩いている斬人を、後ろから変なものを見るような目で見てしまう。


だが、180cm以上はありそうな高い身長。

広い背中に高い位置にある腰。

そこからすらっと伸びている長い足。

芸能人みたいなスタイルの良さだ。


違う出会い方をしていたら、確実に見惚れてしまっていただろう端正な顔立ちも斬人はしているが、今となってはそれらが視界に入るだけで反射的に顔を(しか)めてしまう始末。


私は小さくため息を吐きながら、もう一度自分の不幸を呪った。


そして相変わらずすれ違う人の顔面にはもれなく傷が走っており、見ていられない。


……あれ、でも狭川さんもかなり物騒なのに、顔に傷とか見当たらないよな。


私は狭川さんを一瞬ちらりと見ただけだったが、何故かすぐに目が合う。