溺愛、しないで



「ちょ、駄目ですってば青島さん!んな状態で外出たら!」


「その為のテメーなんだろ?」


「ですけど!午後からまた脳の検査があるってジーさんが言ってたっスよ!戻るっス!」


「スッススッスうるせえ奴だな。お前今日からスッスな。似合いの名前だろ」


「んもー!ふざけてる場合じゃないっス!それ終わったら好きにしていいっスから、とりあえず病院に!ああほら、電話かかってきたじゃないスか!」


俺のボディーガード、狭川銭次(きょうがわせんじ)が、後ろでキャンキャン騒ぎながら焦ったように携帯を耳に押し当てた。


電話越しだというにも関わらず、しゃがれた怒鳴り声がここまで聞こえてくることにうんざりし、俺は銭次を置いて歩き出す。


あんな消毒液臭い場所に閉じ込められるくらいなら、散歩してた方がいくらかマシだ。


この数日間、所謂(いわゆる)裏病院に詰め込まれていたため外に出るのは大分久しぶりだったが、外は普通の街並みが広がっており特に面白みがないことに肩を落とした。


道行く人の顔ぶれも、表社会の人間のそれだ。

遠くの空には春の夕景。

少し冷たい風が、白いシャツを揺らして吹き抜けていった。

なんか平和ボケしそー。


「あー!青島さん待って!俺から離れないでくださいっス!」


後ろで銭次の声がしたような気がするが、俺は無視して角を曲がる。


経年劣化している灰色の壁。

そこから突き出ている枝葉に頬を(かす)めそうになり、俺は無意識に顔を(そむ)けるが──その代わりに、携帯をいじりながら前を歩いてきた女子高生を避けることができなかった。


「っぐ……!」


骨が折れている箇所に女の額が強く当たり、思わず奥歯を噛み締めた歯の隙間から低い(うめ)き声が漏れる。


すぐに絞めあげてやろうと手を伸ばしたが、女はワイヤレスイヤホンを付けていることに気付き、雑に手で払って弾き飛ばす。


「っ……!?」


「このクソガキ、どこ見て歩いて……」


「もう青島さん!ジーさんカンカンっス!こうなったらもう強引にでも……って、え?なんスかこのちんちくりん」


「お前……俺の恋人じゃねえか?」


──二人分の間抜けな声が、路上に響き渡った。


「違います!!」


「あーはいはい変なこと言ってないで戻りますよ!これ以上待たせたら、あのジーさんに病院追い出されちまう」


「ならコイツも連れてこい」


「はあ?」


「そしたら検査でも何でも受けてやるよ」


「ええ〜……。こんな一般人、連れ帰ってどうするつもりスか?」


「このガキ、俺にぶつかってきて謝りもしねえんだぞ」


「……。はあ……んじゃおじょーちゃん、俺についてきて」