チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜

さっきから胸の早鐘が鳴り止まない。


静かに距離を詰めて。

逃げ道を塞いで。

自分が欲しい言葉を、全部こちらに言わせて。

満足したら、何事もなかったように離れていく。


ずるい。

本当に、ずるい。


美月は机の上に置いていたラッピング済みの箱を手に取った。

チョコレート色の箱に、淡いピンクの包み紙。

昨日は満足して眺めていたはずなのに、今は少し頼りなく見える。

それでも、これは理久のために作ったものだ。

美月は箱を両手で持ち、リビングへ戻った。


理久は、先ほどまでと変わらない顔でそこにいた。

あれだけ人を追い詰めておきながら、もういつもの穏やかな理久に戻っている。

美月は小さく息を吸った。

そして、両手で箱を差し出す。

「これ……初めて手作りしました」

すぐそばには、世界的なショコラティエの高級チョコレートがいくつもある。

それを思うと、急に恥ずかしくなった。

「高級チョコレートには、足元にも及びませんが……受け取ってください」

理久が、そっと手を伸ばして箱を受け取った。

先ほどとはまるで違う、甘く柔らかな笑みが浮かぶ。

「ありがとう、美月」

その声だけで、美月の胸がまた小さく跳ねた。

「開けてもいい?」

「どうぞ」 

理久は、しなやかな指先で丁寧に包みを解いていった。

チョコレート色の箱を開けると、中には昨日作ったトリュフが並んでいる。

形も少し不揃いで、完璧とは言えない。

それでも理久は、優しい笑顔で眺めていた。

「いかがでしょう。形はやや歪ですが、心を込めて作りました」

「うん」

理久は満足そうに目を細める。

「とても嬉しいよ」

その横顔を見て、美月はようやくほっとした。

すると理久がこちらを向く。

口元に、少しだけ悪戯な笑みが浮かんだ。

「これは、お風呂のあとにワインと一緒に食べようかな。美月も俺の部屋に来て、一緒にどう?」

美月の顔がまた熱くなる。

その反応を見て、理久はさらに楽しそうに笑った。

「今晩は、ゆっくり堪能したいな、美月……」

そこで、わざとらしく言葉が止まる。

「……の作ってくれたチョコをね」

「変なところで間を開けて言わないでください」

「美月は何を想像したんだか」

「してません」

「そう?」

くすっと笑いながら、理久の手が美月の頭を撫でる。

完全に揶揄われている。

そうわかっているのに、その手つきがあまりにも優しくて、美月は強く言い返せなかった。

そんな美月を見て、理久がそっと額にキスを落とす。

「バレンタインは、二人で楽しもう」

甘いキスは、たったそれだけだった。


けれど、美月の心臓は簡単に跳ねる。

心臓がいくつあっても足りない。

「あ、二人で楽しむなら、お風呂も――」

「別でお願いします!」

即座に遮ると、理久は愉快そうに笑った。

「はいはい。お先にどうぞ」

やっぱり理久は理久だった。


大人の余裕で美月を包み込みながら、時々どうしようもなく意地悪で。

それなのに、向けられる笑顔は甘い。


今年のバレンタインが、特別な夜になることだけは確かなようだった。

きっとそれは、チョコレートよりも甘いひとときになる。


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