4-2.沈黙
「お待たせ。
じゃあ、3人で話をしようか。」
顔を青く染め、驚愕に目を見開く二人を前に、俺は「どうも」と一言だけ事務的に言い放ち、穂花の隣の席へ滑り込んだ。
場が凍りついたように静まり返る。
過呼吸気味な、穂花のカヒューカヒューという呼吸音だけがノイズのように小さく響く。
周囲の店員もただごとではない修羅場を察したのだろう、お冷やを持ってきたきり、注文を聞きに近づいてこようともしない。
沈黙は痛いほどに引き延ばされる。
もう席に着いて5分くらい経ったんじゃないかな。
完全に恐怖で固まっている2人から口を開く気配はない。
仕方ないのでこの場を完全に支配するためにも、俺は冷え切った声を喉から絞り出した。
「今日も旦那を差し置いて二人で密会、そうだろ? 俺も随分と馬鹿にされたもんだと頭にきてるから、もし大きい声が出ちゃったらごめんよ。
…状況はわかっているよな、元上司さん。」
俺は目を剥き、正面の男を真っ直ぐに睨みつけた。
男は顔を真っ青にしたまま、唇を真一文字に結んで何も言わない。
カタタカタッ、机が震えた。
隣の穂花に視線を向けると、両手を膝のシワが寄るほど強く押し付け、じっと下を向いてガタガタと震えている。
やばいことをしていた、悪いことをしていたという自覚だけはあるようだ。
その怯えが、俺の腹の底の暗い感情をさらに煮え立たせる。
「返事もできねぇとか、俺の神経を逆撫でするだけだぞ。
舐めてるの?」
わざとドスの利いた声をぶつける。
ビクッ、と二人の肩が同時に跳ね上がった。
「まぁいいや。
今日は、前々から怪しいと思ってたお前らの不倫だけど、間違いないと確信したからけりをつけに来たんだ。」
「不倫」という不穏なワードを口にした瞬間、今まで黙っていた穂花がバッと顔を上げた。
「違う! 不倫じゃない!
私たち、食事や会話はしたけれど、不貞も働いてないし、付き合ってもない!」
必死に涙目で縋り付いてくる穂花。
肉体関係がないからセーフだと、本気でそう思っているのか。
コン
ポケットからスマホを取り出し、テーブルに置く小さな音。
それだけで二人がビクッと黙る
俺は何も言わず、画面をタップした。
「本当に、奈良さんに会えない間の半月間、信じられないくらい寂しかったんですからね。」
「宮本さん、そこまでボクのことを思ってもらえるなんて、本当に嬉しいよ。」
スピーカーから流れる、ノイズ混じりの二人の艶っぽい声。
先ほどまで車内のイヤホンで聴いていた、紛れもない裏切りの証拠だ。
再生を止めると、店内は再び静まり返った。
二人は完全に言葉を失っている。
「これを聞いて、まだ言う?
嬉しそうに2人でイチャつきやがって。
百人が聞いたら百人が不倫間違いなしって言うだろ、こんなの。」
俺が吐き捨てると、それまで押し黙っていた元上司が、小さく深呼吸をして眼鏡の奥の目をこちらに向けた。
「先に申しますが、私共の間に不貞の事実はありません。
その上で、旦那さんにご不快な思いをさせたことを、深くお詫び申し上げます。
信じていただけないでしょうが、この会話にそういう意図はありませんでした。
ですが、ご迷惑をお掛けしているのも事実です。
…それで、私達がどうすればいいか、旦那さんには何か『お考え』があるのでしょうか?」
どこか淡々とした、ビジネスの交渉ごとのような口調。
それが猛烈に癪に障った
こいつはまだ、自分の足元が崩れていることに気づいていない。
逃げ場がないことを知らしめるように俺は淡々と、だけど大きな声で話した。
「…お考え、ね。
いいだろう、俺の要求を教えてやるよ。」
「お待たせ。
じゃあ、3人で話をしようか。」
顔を青く染め、驚愕に目を見開く二人を前に、俺は「どうも」と一言だけ事務的に言い放ち、穂花の隣の席へ滑り込んだ。
場が凍りついたように静まり返る。
過呼吸気味な、穂花のカヒューカヒューという呼吸音だけがノイズのように小さく響く。
周囲の店員もただごとではない修羅場を察したのだろう、お冷やを持ってきたきり、注文を聞きに近づいてこようともしない。
沈黙は痛いほどに引き延ばされる。
もう席に着いて5分くらい経ったんじゃないかな。
完全に恐怖で固まっている2人から口を開く気配はない。
仕方ないのでこの場を完全に支配するためにも、俺は冷え切った声を喉から絞り出した。
「今日も旦那を差し置いて二人で密会、そうだろ? 俺も随分と馬鹿にされたもんだと頭にきてるから、もし大きい声が出ちゃったらごめんよ。
…状況はわかっているよな、元上司さん。」
俺は目を剥き、正面の男を真っ直ぐに睨みつけた。
男は顔を真っ青にしたまま、唇を真一文字に結んで何も言わない。
カタタカタッ、机が震えた。
隣の穂花に視線を向けると、両手を膝のシワが寄るほど強く押し付け、じっと下を向いてガタガタと震えている。
やばいことをしていた、悪いことをしていたという自覚だけはあるようだ。
その怯えが、俺の腹の底の暗い感情をさらに煮え立たせる。
「返事もできねぇとか、俺の神経を逆撫でするだけだぞ。
舐めてるの?」
わざとドスの利いた声をぶつける。
ビクッ、と二人の肩が同時に跳ね上がった。
「まぁいいや。
今日は、前々から怪しいと思ってたお前らの不倫だけど、間違いないと確信したからけりをつけに来たんだ。」
「不倫」という不穏なワードを口にした瞬間、今まで黙っていた穂花がバッと顔を上げた。
「違う! 不倫じゃない!
私たち、食事や会話はしたけれど、不貞も働いてないし、付き合ってもない!」
必死に涙目で縋り付いてくる穂花。
肉体関係がないからセーフだと、本気でそう思っているのか。
コン
ポケットからスマホを取り出し、テーブルに置く小さな音。
それだけで二人がビクッと黙る
俺は何も言わず、画面をタップした。
「本当に、奈良さんに会えない間の半月間、信じられないくらい寂しかったんですからね。」
「宮本さん、そこまでボクのことを思ってもらえるなんて、本当に嬉しいよ。」
スピーカーから流れる、ノイズ混じりの二人の艶っぽい声。
先ほどまで車内のイヤホンで聴いていた、紛れもない裏切りの証拠だ。
再生を止めると、店内は再び静まり返った。
二人は完全に言葉を失っている。
「これを聞いて、まだ言う?
嬉しそうに2人でイチャつきやがって。
百人が聞いたら百人が不倫間違いなしって言うだろ、こんなの。」
俺が吐き捨てると、それまで押し黙っていた元上司が、小さく深呼吸をして眼鏡の奥の目をこちらに向けた。
「先に申しますが、私共の間に不貞の事実はありません。
その上で、旦那さんにご不快な思いをさせたことを、深くお詫び申し上げます。
信じていただけないでしょうが、この会話にそういう意図はありませんでした。
ですが、ご迷惑をお掛けしているのも事実です。
…それで、私達がどうすればいいか、旦那さんには何か『お考え』があるのでしょうか?」
どこか淡々とした、ビジネスの交渉ごとのような口調。
それが猛烈に癪に障った
こいつはまだ、自分の足元が崩れていることに気づいていない。
逃げ場がないことを知らしめるように俺は淡々と、だけど大きな声で話した。
「…お考え、ね。
いいだろう、俺の要求を教えてやるよ。」
