―――――ブーン
エンジンをかけた車はゆっくりと発車した。
先生の車は、真っ黒な5人乗りの普通車。
座席は思ったよりもふかふかで、爽やかな石鹸の香りの芳香剤も置いてある。
石鹸の香りが好きなのかな…?
後ろから見える先生のハンドルさばき…いつもに増してかっこいいよぉ。
「神崎さん、具合は大丈夫?」
助手席からうしろに振り向いた安西先生が言った。
「あ、全然もうこの通り。」
そんな優しくされても、私はあなたの敵ですからね?
ふり返ったお顔さえも美人すぎて……ふんっ。
「ねぇ、先生?私にキッスしてくれたんでしょ?」
運転中の先生は前を見ながら、“はぁ”っと大きなため息をついたのだ。
「お前な、あれは人工呼吸な。…そしてなんだよ“キッス”って。」
「えーでも、言い方変えただけで変わりないでしょう?私のファーストキッスは先生に奪われたんだよ?」
「…神崎、降ろされたいのか?」
「わかった、わかったよ!もうそんな怒らないでよ~…」
信号が赤になった瞬間、ギロッと私を見てきたのだ。
うぅ、怖いけど…その顔もかっこいいなんて、罪だね…先生。
そんなこんなで、最寄りの駅に到着した。
「先生、助けてくれてありがとうね。…そしてキッスもありがとう♡」
「だから…その言い方やめろ。暗いから気をつけろよ。」
「はぁい♪」
車から降りた私と美咲は家路を歩き出す。
「神崎さん、相田さん気を付けてね。」
安西先生はここから電車で帰るみたい。
…よかった。
“さようなら”と言いながら、ぺこりと会釈した。



