理恵の批評
「ええ。でも、理恵目線で読むと、拓也と早苗の恋愛は、今の時代ならかなり危うく感じるわ」
理恵は、少し真剣な表情になった。
「拓也さんは、早苗さんへの気持ちが強すぎて、相手の気持ちを確かめる前に行動してしまっているの。手をつなぐところまでは、早苗さんが同意しているから自然だけど、キスを“盗んだ”という表現は、今の読者には怖く感じられるかもしれないわ。早苗さんが身体を寄せてきたとしても、そこで一言、確認する描写があったほうが、二人の関係を応援しやすいと思う」
龍太郎は、黙って聞いていた。
「それから、三回目のデートでピンク映画に誘う場面も、拓也さんの焦りが伝わる反面、早苗さんの立場からすると、かなり戸惑うわよね。断られたあとに、すぐ別の映画へ誘うよりも、まず『ごめん、失礼だった』と謝るほうが、拓也さんの誠実さが伝わると思う」
「なるほどな」
「LINEのやり取りも、拓也さんの感情が一気に暴走している感じがするわ。『会社を休む』『辞める』とまで言われたら、早苗さんは責任を背負わされたように感じるかもしれない。好きだからこそ、相手を追い詰めない距離感が必要なのよ」
理恵は、少し考えてから続けた。
「一方で、早苗さんも、拓也さんを本当に嫌いだったわけではないのよね。意地悪な気持ちでブロックしたという設定は、早苗さんの未練や迷いを表していて面白いわ。ただ、その後すぐにお見合いをして、ホテルで拓也さんが現れ、三か月後には結婚する流れは、少し急に感じるの。早苗さんがなぜ拓也さんを選んだのか、気持ちが変わるきっかけを、もう少し丁寧に描くと説得力が増すと思う」
龍太郎は、スマートフォンにメモを取り始めた。
「つまり、拓也さんは一発逆転を狙う前に、相手の気持ちを尊重することを覚えないといけないんだな」
「そう。恋愛は、相手を驚かせることより、相手が安心できることのほうが大切よ」
理恵はそう言って、いたずらっぽく笑った。
「でも、小説って書き出しが命よね。拓也さんと早苗さんの物語も、最初の出会いから、二人の気持ちが少しずつ変わっていくように書けば、もっと読者の心をつかめると思うわ」
龍太郎は、その笑顔を見ながら、頭の中に浮かんだ言葉をゆっくりとつぶやいた。
「水色の出逢いから、物語は始まる……」
理恵は嬉しそうにうなずいた。理恵が、ふいに質問してきた。
「私を堕としてみせるって……現実では、どうなるの?」
龍太郎は、すぐには答えなかった。しばらく理恵を見つめてから、静かに首を横に振った。
「現実では……無理だと思う」
「どうして?」
「小説なら、どんな運命だって描ける。でも、現実には相手の気持ちがある。俺の思いだけで、理恵を変えることなんてできないよ」
理恵は黙った。
「じゃあ……私が自分から堕ちたら?」
その言葉に、龍太郎の胸がわずかにざわついた。現実は、小説のようにはいかない。だからこそ、理恵のその一言が、龍太郎には怖いほど現実的に聞こえた。
「結婚は遊びじゃない。けれど、恋愛は遊びだ」
龍太郎は、理恵の目を見ながら言った。
「理恵となら、恋愛はできる。でも……結婚はできない」
その言葉を聞いた瞬間、理恵の表情がわずかに固まった。
「……恋愛はできるのに、結婚はできないの?」
「そうだ」
龍太郎は、それ以上の説明をしなかった。理恵も、何も言い返せなかった。帰り道、理恵は何度も龍太郎の言葉を思い返した。恋愛はできる。その一言が、嬉しいようで苦しかった。結婚はできない。その一言が、胸の奥に重く残った。その夜、理恵はベッドに入っても眠れなかった。布団の中で何度も寝返りを打つ。スマートフォンを手に取り、龍太郎とのメッセージ画面を開く。
「おやすみ」と送ろうとして、文字を打つ。
しかし、送信ボタンを押す直前に消した。
もう一度、画面を開く。
今度は「どうして?」と打った。
やはり送れない。理恵はスマートフォンを枕元に置き、天井を見つめた。自分はいったい、龍太郎に何を求めているのだろう。恋愛だけでいいと思っていたはずなのに、なぜか今は、「結婚できない」という言葉だけが、頭から離れなかった。この日から理恵の返信は音信不通になった。龍太郎はこれでいいんだと自分で納得した。
「ええ。でも、理恵目線で読むと、拓也と早苗の恋愛は、今の時代ならかなり危うく感じるわ」
理恵は、少し真剣な表情になった。
「拓也さんは、早苗さんへの気持ちが強すぎて、相手の気持ちを確かめる前に行動してしまっているの。手をつなぐところまでは、早苗さんが同意しているから自然だけど、キスを“盗んだ”という表現は、今の読者には怖く感じられるかもしれないわ。早苗さんが身体を寄せてきたとしても、そこで一言、確認する描写があったほうが、二人の関係を応援しやすいと思う」
龍太郎は、黙って聞いていた。
「それから、三回目のデートでピンク映画に誘う場面も、拓也さんの焦りが伝わる反面、早苗さんの立場からすると、かなり戸惑うわよね。断られたあとに、すぐ別の映画へ誘うよりも、まず『ごめん、失礼だった』と謝るほうが、拓也さんの誠実さが伝わると思う」
「なるほどな」
「LINEのやり取りも、拓也さんの感情が一気に暴走している感じがするわ。『会社を休む』『辞める』とまで言われたら、早苗さんは責任を背負わされたように感じるかもしれない。好きだからこそ、相手を追い詰めない距離感が必要なのよ」
理恵は、少し考えてから続けた。
「一方で、早苗さんも、拓也さんを本当に嫌いだったわけではないのよね。意地悪な気持ちでブロックしたという設定は、早苗さんの未練や迷いを表していて面白いわ。ただ、その後すぐにお見合いをして、ホテルで拓也さんが現れ、三か月後には結婚する流れは、少し急に感じるの。早苗さんがなぜ拓也さんを選んだのか、気持ちが変わるきっかけを、もう少し丁寧に描くと説得力が増すと思う」
龍太郎は、スマートフォンにメモを取り始めた。
「つまり、拓也さんは一発逆転を狙う前に、相手の気持ちを尊重することを覚えないといけないんだな」
「そう。恋愛は、相手を驚かせることより、相手が安心できることのほうが大切よ」
理恵はそう言って、いたずらっぽく笑った。
「でも、小説って書き出しが命よね。拓也さんと早苗さんの物語も、最初の出会いから、二人の気持ちが少しずつ変わっていくように書けば、もっと読者の心をつかめると思うわ」
龍太郎は、その笑顔を見ながら、頭の中に浮かんだ言葉をゆっくりとつぶやいた。
「水色の出逢いから、物語は始まる……」
理恵は嬉しそうにうなずいた。理恵が、ふいに質問してきた。
「私を堕としてみせるって……現実では、どうなるの?」
龍太郎は、すぐには答えなかった。しばらく理恵を見つめてから、静かに首を横に振った。
「現実では……無理だと思う」
「どうして?」
「小説なら、どんな運命だって描ける。でも、現実には相手の気持ちがある。俺の思いだけで、理恵を変えることなんてできないよ」
理恵は黙った。
「じゃあ……私が自分から堕ちたら?」
その言葉に、龍太郎の胸がわずかにざわついた。現実は、小説のようにはいかない。だからこそ、理恵のその一言が、龍太郎には怖いほど現実的に聞こえた。
「結婚は遊びじゃない。けれど、恋愛は遊びだ」
龍太郎は、理恵の目を見ながら言った。
「理恵となら、恋愛はできる。でも……結婚はできない」
その言葉を聞いた瞬間、理恵の表情がわずかに固まった。
「……恋愛はできるのに、結婚はできないの?」
「そうだ」
龍太郎は、それ以上の説明をしなかった。理恵も、何も言い返せなかった。帰り道、理恵は何度も龍太郎の言葉を思い返した。恋愛はできる。その一言が、嬉しいようで苦しかった。結婚はできない。その一言が、胸の奥に重く残った。その夜、理恵はベッドに入っても眠れなかった。布団の中で何度も寝返りを打つ。スマートフォンを手に取り、龍太郎とのメッセージ画面を開く。
「おやすみ」と送ろうとして、文字を打つ。
しかし、送信ボタンを押す直前に消した。
もう一度、画面を開く。
今度は「どうして?」と打った。
やはり送れない。理恵はスマートフォンを枕元に置き、天井を見つめた。自分はいったい、龍太郎に何を求めているのだろう。恋愛だけでいいと思っていたはずなのに、なぜか今は、「結婚できない」という言葉だけが、頭から離れなかった。この日から理恵の返信は音信不通になった。龍太郎はこれでいいんだと自分で納得した。



