ゆびきりげんまん

思わず叫ぶと、颯真兄ちゃんがケラケラ笑った。

「なんや。聞いたん、お前やろ」

「そうやけど!ちょっとくらい考えてよ!」

「考えても答え変わらへんし」

「そこを考えるの!」

「なんでやねん」

もう!

ほんっと、この男は!

あたしがどれだけ勇気を出して聞いたと思ってんねん。

好きな人おる?

たったそれだけ。

たったそれだけなのに、昨日の夜から何回も練習した。

鏡に向かって。

『颯真兄ちゃんって、好きな人おるの?』

違う。

これじゃ真剣すぎる。

『ねえねえ、好きな人とかおる?』

軽すぎる。

『彼女できたん?』

怖くて聞けへん。

最終的に布団の中で枕を抱きしめながら。

『おりませんように』
と神様にお願いした。

なのに。

「おらん」

一秒。

あたしの一晩を返せ。

「……じゃあさ」

「ん?」

「好きなタイプは?」

颯真兄ちゃんが、あたしを見る。

「なんや急に」

「いいから!」

「んー……」

今度は考えた。

そう。

それでいい。

もっと考えろ。

できれば答えは、

年下で。

ちょっと小さくて。

髪はこれくらいで。

できれば名前の最初が『す』で最後が『ず』なら完璧や。

「大人の女」

「…………」

「落ち着いとって、しっかりした――」

「もういい!」

「なんやねん!」

あたしは勢いよく立ち上がった。

腹立つ!

全部あたしと逆やん!

「帰る!」

「は?」

「颯真兄ちゃんなんか嫌いや!」

「お前なぁ……」

「大っ嫌い!」

そのまま歩き出す。

三歩。

四歩。

五歩。

「すず」

呼ばれても振り返らない。

大人の女が、ええんやろ。

落ち着いた女がええんやろ。

だったら追いかけてくんな。

「おい、すず」

足音が近づいてくる。

来るな。

来るな。

来るなってば。

――ぽん。

頭に大きな手が乗った。

「なんで怒っとんねん」

「知らん!」

「お前が聞いたんやろ」

「知らん!」

「意味わからんわ」

「知らんいったら知らん!」

頭の上の手を振り払って、また歩き出す。

すると後ろから、呆れたような声が飛んできた。

「ほんま、ガキやなぁ」

ぴたっ。

足が止まった。

…………ガキ。

ゆっくり振り返る。

颯真兄ちゃんは、まだ気づいていない。

今。

絶対に。

言ってはいけない言葉を言ったことに。

「……颯真兄ちゃん」

「ん?」

「あたし、もう十六なんやけど」

「知っとる」

「子供ちゃえから」

「俺から見たら子供や」

ぷちっ。

何かが切れた。

「じゃあ見てろぉぉぉ!」

「何をや!」

「あたしが大人の女になるとこ!」

「はぁ!?」

「絶対なるから! 颯真兄ちゃんがびっくりするくらい、いい女になってやる!」

颯真兄ちゃんが目を丸くしている。

あたしはビシッと人差し指を突きつけた。

「そんで!」

「お、おう」

「その時になって好きになっても遅いんやからね!」

「…………」

「後悔しても知らんから!」

数秒。

颯真兄ちゃんは黙ってあたしを見ていた。

そして。

「ならへん、ならへん」

笑いながら、ひらひらと手を振った。

「すずは百年経っても、すずや」

「むっかつくぅぅぅぅ!!」