モノツキ落とし~ウワサの幽霊くんは地獄から来た名探偵!?~

 【モノツキ】?
 いったい、何のことだろう。

 あのオバケのことを言ってるんだろうけど……と、不思議に思う私をよそに、オバケは男の子に向かって怒鳴るように言った。

「だったら何だ! 俺はこのガキ共の感情を食らって、強くなるんだ! 邪魔をするなら、消えてもらう!」

 煙でできた腕が、ぐわっと振り上げられる。

 直感的に、当たったらただじゃすまない! とわかった。

「危ない!」

 私はとっさに、男の子の前に飛び出る。

 オバケの腕が目の前にせまる。
 でも、私はひるまない。

 特別な力なんて無いけれど、むしろ運動は苦手な方だけど。

 それでも、足に力を入れて、ぎゅっとこぶしをにぎり、オバケをにらみつけた。

「『開(かい)』」

 男の子の気だるげな声が空気を打つ。

 その声が耳元から聞こえてきたものだから、私はハッとして横を見る。
 男の子は私の隣に立ち、涼しい顔で煙を見上げて、右手を前に突き出していた。

 次の瞬間、オバケの周りを囲うように七つの扉が現れた。

 かと思えば扉はいっせいに開き、そこから勢いよく鎖が飛び出す。

 鎖は煙の体中に巻き付いて、振り上げられた腕ごと動きを封じてしまった。

「な、なんだこれは!?」

 オバケが口をガパッと開けて、大声を上げる。

 不思議なことに、鎖は煙をすり抜けることなくがっちりと掴んでいた。

 そうしているうちに、オバケの足元にも扉がひとつ現れ、ゆっくりと開く。
 オバケは足場が無くなり、鎖に捕まったまま宙ぶらりんになっていく。

「あれは……!?」

 そして、オバケは自分の足元を見て声を震わせた。

 足元で開いた扉の向こう、遥か下の方には、ごうごうと炎が燃える険しい荒地が見えていたからだ。

 その光景は当然、近くに居る私の目にも入ってくる。
 流れ出てくる熱い空気と、恐ろしい雰囲気に、私は思わず息をのんだ。

 何なんだろう。
 どこなんだろう、あそこは。

「地獄だよ」

 男の子が、右手を前に出したまま言う。

「僕は地獄から来た探偵、人呼んで【閻魔の眼】。キミみたいな【モノツキ】――モノに取り憑き悪事をはたらく幽霊の悪事を暴き、捕まえるのが仕事なのさ」

 彼は一歩、また一歩とオバケの方へと近付いていく。

 初めて聞く言葉ばかりで、私の頭は混乱していた。

 でも、ひとつだけ、わかる。
 この男の子は……ただの幽霊じゃない。

「お前の罪は暴かれた。地の底へ落ちろ、業深き魂よ――!」

 少しだけ力の入った声で、宣言するみたいに男の子が言う。

 すると鎖がいっせいにほどかれ、オバケは扉の向こうへと放り出された。

「ギャあああアアアァァアァ……ッ」

 地響きがしそうなくらいの悲鳴をとどろかせながら、オバケは真っ逆さまに落ちていく。

 やがてその声が遠ざかり、聞こえなくなると、鎖を出していたのも含めて八つの扉はバタン! と勢いよく閉じた。

 まるでジェットコースターにでも乗っているみたいな、目まぐるしい展開に、私はあぜんとする。
 対して、男の子は右手を下ろし、スカジャンのポケットに突っ込んだ。

「よし、終わり」

 終わり……。

 そっか、終わった……んだ。

 何もかもに実感がわかないけれど、私は彼の言葉を信じて、張り詰めていた息を吐き出す。

 なんだかどっと疲れちゃった……。

 でも、愛菜ちゃんは無事で、男の子も無事で、私も無事。

 うん、今は、それだけで十分だ。