次の日。
私は男の子に言われた通り、裏体育館倉庫には行かずに、五年二組の教室へと向かった。
「おはよう!」
もしかしたら、ひと晩たって、みんな落ち着いているかも。
そんな希望と共に、私は教室のドアを開ける。
けれど、目に入って来たのは。
「…………」
「…………」
「…………」
とてもとても、気まずい空気のただよう景色だった。
みんな、いつもと変わらず登校してきている。
でも誰も楽しそうにおしゃべりはしていない。
冷たくて、にごった視線を、お互いに向けているだけだ。
仲良しグループの子たちはかろうじて集まっているけれど、それ以外の子たちは、みんなバラバラ。
私はずんと暗い気持ちになり、自分の席に向かった。
「お……おはよう、甘音ちゃん」
後ろからひかえめな声がして、私はパッとと振り向く。
「! やよいちゃん」
そこに立っていたのは、右隣の席の藤堂やよいちゃんだった。
中学生にも負けないくらい背の高い彼女は、私が話しやすいように気を使って、机の横にしゃがみ込んでくれる。
「あのね……私、甘音ちゃんのことは疑ってないよ」
内緒話をするみたいに、小さな声でやよいちゃんは言った。
今の教室では、普通の声で話をすることすらできない。
それでも私は、やよいちゃんが話しかけてくれたことにホッとする。
「私も。やよいちゃんのことも、誰のことも疑ってない」
そう、私はちゃんと知っている。
五年二組のみんなが、人の物を隠したり盗んだりするわけないってこと。
みんな愛菜ちゃんを心配していて、悪いことが許せないからこそ、犯人探しに躍起になっているってこと。
でも、だから早く、こんなことは終わりにしたい。
裏体育館倉庫の幽霊の男の子は、「教室で待っていて」と言っていた。
きっとこれから、彼が何かアクションを起こしてくれるんだ。
私は手を組み、祈るようにその時を待った。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、やよいちゃんやみんなが席につく。
男の子は、もう何かを始めているのだろうか。
私はそわそわしながら、さりげなく辺りを見回した。
「はーい、ホームルーム始めますよー」
ガラッと教室のドアが開き、担任の巽アラタ先生が入ってくる。
担任って言っても、実は先々週から怪我でお休み中の南玲子先生の代理なんだけど。
アラタ先生は、昨日の事件のことを知らない。
誰も事件のことを、先生に言ってないからだ。
なんで言ってないかというと、それは愛菜ちゃんが「先生には秘密にして」と頼んだから。
「…………」
私はちらりと、ななめ前の席に座る愛菜ちゃんを見る。
彼女は暗い顔をしていたが、視線は一直線にアラタ先生に向かっていた。
アラタ先生は若くてカッコよくて、みんなに人気だ。
愛菜ちゃんも彼のことが好きだ、推しだとよく言っている。
彼女が「秘密にして」と言ったのは、たぶん好きな人に迷惑をかけたくないからなのだろう。
私は自分の机に、視線を落とす。
次の瞬間。
「うわあっ!?」
大きな悲鳴を上げて、私は思わず立ち上がった。
理由は簡単。
机の上に、白いネズミが乗っかっていたからだ。
私は男の子に言われた通り、裏体育館倉庫には行かずに、五年二組の教室へと向かった。
「おはよう!」
もしかしたら、ひと晩たって、みんな落ち着いているかも。
そんな希望と共に、私は教室のドアを開ける。
けれど、目に入って来たのは。
「…………」
「…………」
「…………」
とてもとても、気まずい空気のただよう景色だった。
みんな、いつもと変わらず登校してきている。
でも誰も楽しそうにおしゃべりはしていない。
冷たくて、にごった視線を、お互いに向けているだけだ。
仲良しグループの子たちはかろうじて集まっているけれど、それ以外の子たちは、みんなバラバラ。
私はずんと暗い気持ちになり、自分の席に向かった。
「お……おはよう、甘音ちゃん」
後ろからひかえめな声がして、私はパッとと振り向く。
「! やよいちゃん」
そこに立っていたのは、右隣の席の藤堂やよいちゃんだった。
中学生にも負けないくらい背の高い彼女は、私が話しやすいように気を使って、机の横にしゃがみ込んでくれる。
「あのね……私、甘音ちゃんのことは疑ってないよ」
内緒話をするみたいに、小さな声でやよいちゃんは言った。
今の教室では、普通の声で話をすることすらできない。
それでも私は、やよいちゃんが話しかけてくれたことにホッとする。
「私も。やよいちゃんのことも、誰のことも疑ってない」
そう、私はちゃんと知っている。
五年二組のみんなが、人の物を隠したり盗んだりするわけないってこと。
みんな愛菜ちゃんを心配していて、悪いことが許せないからこそ、犯人探しに躍起になっているってこと。
でも、だから早く、こんなことは終わりにしたい。
裏体育館倉庫の幽霊の男の子は、「教室で待っていて」と言っていた。
きっとこれから、彼が何かアクションを起こしてくれるんだ。
私は手を組み、祈るようにその時を待った。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、やよいちゃんやみんなが席につく。
男の子は、もう何かを始めているのだろうか。
私はそわそわしながら、さりげなく辺りを見回した。
「はーい、ホームルーム始めますよー」
ガラッと教室のドアが開き、担任の巽アラタ先生が入ってくる。
担任って言っても、実は先々週から怪我でお休み中の南玲子先生の代理なんだけど。
アラタ先生は、昨日の事件のことを知らない。
誰も事件のことを、先生に言ってないからだ。
なんで言ってないかというと、それは愛菜ちゃんが「先生には秘密にして」と頼んだから。
「…………」
私はちらりと、ななめ前の席に座る愛菜ちゃんを見る。
彼女は暗い顔をしていたが、視線は一直線にアラタ先生に向かっていた。
アラタ先生は若くてカッコよくて、みんなに人気だ。
愛菜ちゃんも彼のことが好きだ、推しだとよく言っている。
彼女が「秘密にして」と言ったのは、たぶん好きな人に迷惑をかけたくないからなのだろう。
私は自分の机に、視線を落とす。
次の瞬間。
「うわあっ!?」
大きな悲鳴を上げて、私は思わず立ち上がった。
理由は簡単。
机の上に、白いネズミが乗っかっていたからだ。

