昼休みが終わる直前になって、愛菜ちゃんは目を覚ました。
でも【モノツキ】のことや男の子のことはすっかり忘れているみたいで、不思議そうな顔をしていた。
たぶん、キーホルダーからオバケが出てきたのが、そうとうショックだったんだろう。
私は説明しようかどうか迷ったけど、怖いことをわざわざ思い出させなくてもいいか、と黙っておくことにした。
そんなこんなで、なあなあのまま私と愛菜ちゃんは教室に帰った。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴って、五時間目が始まる。
教室の中はいまだに暗い空気のままだ。
それもそのはず。
男の子が【モノツキ】を退治してくれてホッとしてたけど、クラスのみんなにとっては、何も状況は変わってないんだから。
どうしようかなあ……。
何とかして、みんなに「犯人はこのクラスにはいないよ!」って信じてもらいたいんだけど……うーん。
えんぴつをコロコロ転がしながら、私は考える。
すると、その時だった。
「きゃあっ! ネ、ネズミが!」
誰かが悲鳴を上げた。
おどろいてそちらを見ると、教室の床をちょろりと走る、白いネズミがいた。
まさか、あれって!
「あのネズミ、朝のと同じじゃない?!」
私が思ったのと同じことを、やよいちゃんが言う。
そうこうしている間に、ネズミは一番前の席、広翔くんの机の上にのぼった。
「あっ、俺の消しゴム! 返せ!」
ネズミは広翔くんの消しゴムをくわえて、逃げようとする。
「おっと」
けれどその前に、アラタ先生がネズミを捕まえて消しゴムを取り返した。
みんなから、「やったあ!」「さすが!」という歓声がわく。
「はい、広翔くん」
「サンキュー、アラタ先生!」
「どういたしまして……おや?」
広翔くんに消しゴムを渡したアラタ先生は、ふと自分の手を見る。
そこには、捕まえていたはずのネズミがいなくなっていた。
「とんだいたずらネズミさんでしたね。さあ皆さん、授業に戻りますよ」
「はーい」
朝と同じように、さわぎがおさまったことで、教室の空気がまた落ち着いていく。
でも私は、どうしてあのネズミが現れて、いたずらをしていったのかが気になった。
だって、たぶんネズミはあの幽霊の男の子があやつってる? みたいだし。
なんで【モノツキ】を退治できた後に、またさわぎを起こすようなことをしたんだろう。
私は全然、意味がわからなくて、首をひねる。
と、そんな私の手を、やよいちゃんがそっとつついた。
「あのさ、甘音ちゃん」
「なあに?」
私は小声で答える。
やよいちゃんは、口元に手を当ててささやくように言う。
「もしかして、愛菜ちゃんのキーホルダーを盗んだのって……あのネズミなんじゃ……」
あっ、と私は気付いた。
そして、周りから聞こえてくる声に、耳をすませてみる。
「愛菜ちゃんのキーホルダーさ……」
「あの白いネズミが……」
「なんか、かしこそうだったし……」
「ネズミなら高いところにも登るよね……」
ぽそぽそと、そんな声がたくさん聞こえてきた。
やっぱりそうだ。
みんな、キーホルダーの一件が、ネズミのしわざだと思い始めてる!
幽霊の男の子は、【モノツキ】を見つけ出すだけじゃなく、五年二組のみんなの仲を直すことまで考えてくれてたんだ。
私はぎゅっと胸が熱くなる。
気だるげで、最初は協力してくれるかもわからなかった男の子。
でも今は、彼がどんなに強くて優しい人か、とてもよくわかる。
「名前くらい、聞いておけばよかったな……」
私はみんなの声にまぎれて、こっそりつぶやいた。

