『もう、好きじゃないことにした』



一歩、莉央は後ろに下がった。


「……ごめん」


ちらりと蓮を見る。

苦しそうに歪んだその表情に、胸が締めつけられた。





蓮side



「私、今は戻れない」

「…うん」

「怖い」


行かないでほしい。
もう少しだけ、ここにいてほしい。

そう伝えようとした。

けれど、キャリーケースを持つ莉央の手が、小さく震えているのが見えた。

「……」

その瞬間、言葉が止まった。

莉央も、きっと苦しいんだ。

引き止めれば、
また莉央を困らせてしまう。

「……分かった」


自分でもわかるくらい、声が苦しそうに震えていた。

莉央は泣きながら俺を見る。


「……ごめんね」

「謝らなくていい」

「……」

「ただ」

俺は震える声に力を込めて言った。

「俺、待つから」

「……え?」

「莉央が怖くなくなるまで」

「……」

「何ヶ月でも、何年でも」

「蓮……」

「でも、一個だけ約束して」

「……何?」

「俺から完全に消えないで」


莉央は答えてくれなかった。

俺は莉央にそれ以上近づかないようにして
ただ、莉央を見つめていた。


「俺はもう、莉央の代わりなんて探さない」

「……」

「美玲に戻ることも絶対ない。」

「……」

「ずっと莉央を好きでいる」


莉央は唇を噛んだ。

そして。

小さく頷いた。


「……分かった」

「うん」

「でも……今は、少しだけ時間をください」

「分かった」


俺は、できるだけ笑った。
泣きそうになるのを隠すように。


なるべく莉央を困らせないように、優しい声で言った。

「いってらっしゃい」



その言葉を聞いて、莉央は泣いていた。

改札を通る。

何度も振り返ってくれ、戻ってきてくれと願った。

でも、振り返ることはなかった。

俺も追いかけなかった。

ただ。

莉央の姿が見えなくなるまで、その場に立っていた。




蓮side end