『もう、好きじゃないことにした』


ある夜。


莉央は会社の歓迎会があったため、
いつもはあまり通らない方向から
駅に向かっていた。

ふと、反対の道路を見た。

「え。」
蓮を見かけた。
女の子と一緒だった。





今度は。





腕を組んでいた。



「……」

胸が凍る。

(やっぱり)

その場から逃げる。


蓮は気づいていなかった。

 ・

 ・

 ・


翌朝。

蓮から連絡が来る。
『昨日、どこいた?』
莉央は返信しない。

だが、何度も来る。
『莉央?』
『大丈夫?』
『何かあった?』
それでも返さない。

 

返信が返ってこない蓮は不安になった。



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蓮side



その少し前。


俺は、以前から何度も連絡をしてくる女に、
半ば無理やり予定を入れられていた。

何度断っても、
「少しだけでいいから」と押し切られて。



正直、気は乗らなかった。

 
それでも断りきれず、
その女と街をぶらぶらしていた。

「ね〜ね〜ここ行ってみたい!」

「……うん」

適当に相槌を打ちながら、隣を歩く。

何を話したのかも、
ほとんど覚えていない。




ただ、早く帰りたい。
そう思っていた。


――その姿を、莉央に見られていたことも知らずに。











その翌日の夜。


昨日莉央に送ったメッセージは、
何時間経っても返事がこなかった。


電話をかけても出ない。


何度もスマホを確認しているうちに、
だんだん不安になってきた。


(いつもなら短い言葉でも返事が来るのに…)


気づけば俺は、莉央の家の前に立っていた。

「莉央」

玄関のドア越しに名前を呼ぶ。

「……」

返事はない。

だけど、気配だけは感じる。

「いる?」

しばらく待っても、やっぱり返事はない。

「昨日、俺を見た?」

「……」

ドアの向こうで、莉央が泣いている。
小さく鼻をすする音が聞こえた。



やっぱり、いる。

「……莉央」

俺はドア越しに、
もう一度優しく呼んだ。


「……帰って」
「帰らない」

「帰ってよ」
「何で?」

 
「……もう分かったから」

「何が?」

「私じゃ無理なんでしょ」


「は?」
「昨日の女の人」

蓮は一瞬黙った。


「あれ、友達」




「……腕、組んでた」

「腕組んでた?」
「……」

「莉ー央」

少しだけ笑いを含んだ、優しい声。


まるで、拗ねている莉央を
宥めるような声だった。

蓮はそんな莉央の様子を思い浮かべながら、
ふっと息を吐く。

そして、頭を抱えた。

「あれは、あの子が無理やり
組んできただけで何もない。」


「……」
「本当にそれだけ」

莉央は泣きながら言う。

「……でも」
「うん」


 莉央の声が、ドア越しに聞こえた。


「私は、そういうの全部見てきたから」


「……」
「もう信じられない」


その言葉に。




蓮は何も言えなかった。



どんな言葉を並べても、
今の莉央には届かない気がした。


しばらく黙ったあと、蓮は小さく息を吐く。

「……ごめん」

それだけだった。

ドアに触れかけた手をゆっくり下ろす。

「今日は……帰る」


返事はなかった。



蓮はもう一度だけドアを見つめると、
そのまま背を向けた。



莉央の泣いている気配を…


背中に感じながら。



 


数歩、歩いたところで。




蓮の足が止まった。

「……」



このまま帰ったら、
本当に莉央を失ってしまう気がした。



今まで何度も、
莉央なら離れていかないと思っていた。






だからこそ。

今だけは、




そんな甘えを





捨てなきゃいけない。





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