――放課後。
「麗愛、今日どうする?」
凛空が鞄を肩にかけながら、麗愛の隣に立つ。
「今日は帰る!」
「珍し」
「ちょっとやることあるねん」
「なに?」
「……内緒!」
麗愛はにこっと笑う。
「怪しいなぁ」
「ほんまに何もないって!」
「はいはい」
二人で笑いながら、校門を出る。
「じゃあまた明日ね!」
「うん!また明日!」
凛空と別れた麗愛は、一人で家へ向かった。
――――――――――
家に帰ると、麗愛は自分の部屋へ直行した。
ベッドに座り、スマホを手に取る。
LINEを開く。
【蓮翔】
昨日の夜。
蓮翔から言われた言葉。
『今度、二人で会わへん?』
思い出すだけで、胸が少しだけどきどきする。
麗愛は少し迷ってから、メッセージを送った。
【麗愛】
『蓮翔!』
すぐに既読がつく。
【蓮翔】
『ん?』
【麗愛】
『この前言ってたやつ!』
【蓮翔】
『二人で会うやつ?』
【麗愛】
『そう!』
麗愛はスマホを握る。
そして――
【麗愛】
『いいよ!デート行こう!』
送信。
「…………」
麗愛は画面を見つめたまま固まった。
「……デートって送っちゃった」
自分で送ったくせに、急に恥ずかしくなる。
「うわぁ……」
麗愛は枕に顔を埋める。
すると。
ピコン。
【蓮翔】
『ほんま?』
【麗愛】
『うん!』
【蓮翔】
『やった』
【蓮翔】
『いつ空いてる?』
麗愛はカレンダーを見る。
【麗愛】
『土曜日なら大丈夫!』
【蓮翔】
『じゃあ土曜日な』
【蓮翔】
『昼くらいに会お』
【麗愛】
『うん!』
【蓮翔】
『楽しみにしてる』
「…………」
麗愛の顔が一気に熱くなる。
「……れあも」
小さく呟いて、スマホを胸に抱えた。
――――――――――
土曜日。
デート当日。
麗愛は朝から自分の部屋で服を選んでいた。
「どれにしよ……」
ベッドの上には、何着もの服。
今日は月華嬢の集まりじゃない。
もちろん、特攻服でもない。
蓮翔と普通の女の子として会う日。
「……これ!」
麗愛が選んだのは――
白のキラキラのトップスに黒色の革のミニスカート。
足元は厚底のヒールを合わせて
小さめのバッグを合わせて、髪はいつもの金髪ウィッグをゆるく巻く。
メイクも学校の日より少しだけしっかりめ。
アイラインを少し長めに引いて、ピンク系のリップ。
香水は少し爽やかな甘い夏っぽい香り
鏡の前でくるっと回る。
「……どう?」
誰もいない部屋で一人呟く。
「可愛い……かな」
少しだけ頬が赤くなる。
今日は――
初めての男の子とデート
蓮翔と会う。
そう思うと、胸がどきどきした。
――――――――――
待ち合わせ場所。
「……蓮翔、もう来てるかな」
麗愛が辺りを見回す。
すると。
「麗愛ちゃん」
「……!」
振り返る。
蓮翔が立っていた。
「蓮翔!」
「おはよ」
「おはよ!」
蓮翔は麗愛の姿を見て、一瞬だけ目を止める。
「……」
「どうしたん?」
「いや」
蓮翔は少し笑う。
「今日、いつもと雰囲気ちゃうな」
「そう?」
「うん。めっちゃ可愛いやん」
「……!」
麗愛の顔が一気に赤くなる。
「な、何いきなり言うん!」
「ほんまのことやん」
「……もう」
麗愛は恥ずかしそうに目を逸らした。
――――――――――
二人で街を歩く。
「どこ行く?」
「まずカフェ行きたい!」
「やっぱり?」
「だって新しいケーキ出たんやもん!」
「ほんま好きやな」
「蓮翔も食べよ?」
「俺も?」
「うん!」
二人で笑いながらカフェへ向かう。
――――――――――
カフェ。
「これ美味しい!」
麗愛が嬉しそうにケーキを食べる。
「ほんま幸せそうに食べるな」
「だって美味しいもん!」
「一口もらってええ?」
「いいよ!」
麗愛がフォークを差し出す。
蓮翔が一口食べる。
「うま」
「でしょ?」
「麗愛ちゃんがそんなおすすめする理由分かったわ」
「えへへ」
二人で笑う。
学校では、こんなにゆっくり話すことはない。
夜の月華嬢でも、二人きりになることはなかった。
だから。
今日が、なんだか特別に感じる。
――――――――――
カフェを出た二人は、ショッピングをしたり、ゲームセンターへ行ったりした。
「蓮翔、プリクラ撮ろ!」
「俺、撮ったことない」
「え!? ほんま!?」
「うん」
「じゃあ今日が初めてやん!」
「……まぁな」
二人でプリクラの中へ入る。
「もっとこっち!」
「近ない?」
「二人で撮るんやからいいやん!」
シャッターが切られる。
「できた!」
麗愛が画面を見る。
「かわいい!」
「めっちゃ盛られてるやん」
「いいやん!」
麗愛は笑いながらプリクラを受け取る。
蓮翔も隣で笑っていた。
――――――――――
夕方。
二人は公園のベンチに座っていた。
楽しかった。
本当に楽しかった。
でも。
麗愛の胸には、ずっと引っかかっていることがあった。
「……」
「麗愛ちゃん?」
「ん?」
「なんか考えてる?」
「……うん」
麗愛は膝の上で手を握る。
ずっと言おうと思っていた。
蓮翔に。
自分のことを。
「……蓮翔」
「ん?」
「麗愛、話したいことがある」
蓮翔は麗愛を見る。
「うん」
「……」
麗愛は深呼吸する。
「麗愛、蓮翔に隠してることがある」
「……」
「月華嬢の総長ってことは、知ってるよね?」
「うん」
「でもね…」
麗愛は少し俯く。
「蓮翔と同じ学校に通ってる」
「……」
「それだけじゃなくて……」
麗愛は顔を上げる。
「同じクラス」
「……」
「学校では黒髪にして、普通の女の子として過ごしてる」
「……うん」
「ずっと、それを蓮翔に言えてなかった」
麗愛の声が少し震える。
「ごめん」
「……」
「でも」
麗愛は蓮翔を見る。
「最近、蓮翔のこと……ちょっと気になるようになって」
「……」
「やから、隠したまま仲良くなるの嫌やった」
麗愛は小さく息を吸う。
「蓮翔には、ちゃんと昼間の麗愛のことも知ってほしい」
少しの沈黙。
麗愛は不安そうに蓮翔を見る。
「……怒った?」
すると。
蓮翔が少し笑った。
「怒るわけないやろ」
「……え?」
「俺、知ってたで」
「…………」
麗愛が固まる。
「……え?」
「昼間の月城麗愛が、麗愛ちゃんやって」
「…………ええ!?」
麗愛が勢いよく立ち上がる。
「いつから!?」
「ちょ、座り」
「だって!!」
「先生が『月城』って呼んだとき」
「……!」
「そのあとLINE見てな」
蓮翔が笑う。
「表示名が『月城麗愛』やったから」
「……うそ」
「ほんま」
麗愛は頭を抱える。
「じゃあ……蓮翔、もう知ってたん?」
「うん」
「ずっと!?」
「気づいたんは、この前やけどな」
「……」
麗愛は呆然とする。
「めっちゃ悩んだのに……」
「うん」
「どうやって言おうかなって……」
「うん」
「めっちゃ緊張したのに……!」
「でも」
蓮翔が優しく笑う。
「麗愛ちゃんが自分から話してくれたん、嬉しかったで」
「……」
「俺が先に気づいてたとしても」
蓮翔は麗愛を見る。
「麗愛ちゃんが俺にちゃんと話してくれたことは、嬉しい」
「……蓮翔」
麗愛の胸が、また大きく鳴る。
「だから謝らんでええよ」
「……うん」
麗愛は安心したように笑った。
「よかった……」
「俺も」
「……?」
「今日、昼間の麗愛ちゃんとして会えてよかった」
「……!」
麗愛の顔がまた赤くなる。
「……もう」
「ん?」
「そういうこと言うん、ずるい」
「なんで?」
「……知らん!」
麗愛は顔を隠す。
蓮翔はそんな麗愛を見て笑った。
――――――――――
帰り道。
二人で並んで歩く。
今まで麗愛は、
昼間の自分と夜の自分を分けていた。
でも。
蓮翔は、そのどちらも知っている。
「……なんか変な感じ」
「何が?」
「蓮翔が、昼間のれあのことも知ってるって」
「うん」
「……恥ずかしい」
「俺は嬉しいけど」
「……」
麗愛は少しだけ笑う。
「じゃあ……これからは隠し事なしな」
「うん」
「約束やで?」
「約束」
二人は顔を見合わせて笑った。
その日。
二人の間にあった秘密が――
ひとつ、なくなった。
