サーカス&バンドの年の差恋愛

観光バスが会場の前に止まり、全員で降りる。
空気は澄んでいて、ステージのあとが楽しみで胸が躍る。
みんなで連れ立って会場に入り、まずは1時間、ステージでのリハーサルを行った。
音の響き、立ち位置、息の合わせ方——細部まで確認し、全員が納得したところで休憩に入る。
正子は楽屋に戻ったが、愛斗の姿が見えない。
「どこにいるのかな」と思い、電話をかける。
「もしもし、愛斗くん? どこにいるの?」
「ステージにいるよ。ピアノの練習をしてて……」
「そうなの。じゃあ、私も行くね。付き合うよ」
ステージに向かうと、愛斗がピアノの前に座り、鍵盤に指を置いていた。 
正子はそっと隣に立つ。愛斗が弾き始めると、その旋律に自然と正子も歌い出す。
ふたりだけのステージ、響くハーモニーはどこまでも優しく、心が一つになるようだった。

ピアノの音が消え、歌い終わった後もしばらく余韻に浸り、それからふたりで楽屋へ戻った。 
ありさが待っていて、正子は思い切って話す。
「ねえ、ありさ。実はね……愛斗くんと付き合ってるの」
ありさは目を丸くして、すぐに笑顔になる。
「そうなの! おめでとう! ずっと応援してたよ」
話が一段落すると、正子は楽屋の前でそばを作り始める。お湯を切り、つゆを注ぎ、具材を丁寧に並べて——三つの器を楽屋に運ぶ。
「はい、できたよ! みんなで食べよう」
愛斗、正子、ありさの三人で温かいそばを囲み、話しながら食事を楽しむ。笑い声が絶えない時間が過ぎ、愛斗が席を立つと、正子とありさはメイクと衣装の支度に入る。 
鏡に向かい、メイクを整え、華やかなステージ衣装に着替える。愛斗もピアニストらしいシックなステージ衣装に着替え、身支度を整える。
本番まであと十分。ステージ袖に集まり、みんなで話をしていると、YouTubeの撮影スタッフがカメラを向ける。
「今日のお父さん、いつもと違うね。どこが変わったでしょう?」
「髪型と衣装、違うね」
「どう? 似合ってる? お父さん」
「いいよ」
「ちゃんと顔見て言って」
「本当にいいよ」
「正子、すっぴんも綺麗だけど、メイクしてもやっぱり綺麗だね」
「ありがとう」
その言葉にありさが驚いて尋ねる。
「え、すっぴん見たことあるんですか?」
「うん。だって、私たち付き合ってるんだもの。おうちデートもしてるし」
正子がそう言うと、愛斗は勇一と高の方を向き、はっきりと告げた。
「俺、正子さんと付き合ってるんだ。よろしく」
高も勇一も笑顔で頷き、「おめでとう」と声を揃える。これで、もう隠すことは何もない——。
やがて幕が開き、コンサートが始まる。
四時間にわたるステージは、歌もピアノも、そしてメンバーの絆もすべてが輝いていた。観客の拍手が鳴りやまぬ中、全員でお辞儀をし、幕を閉じた。
打ち上げは近くの居酒屋で。「乾杯!」の声とともにグラスが重なり、刺身やイカ、焼き鳥がテーブルに並ぶ。
正子が焼き鳥のウインナーを箸で持ち、嬉しそうに頬張る姿を見て、愛斗は思わずニヤニヤと笑顔になる。だけどすぐに照れくさそうにうつむき、顔を赤らめる。
「ん? どうしたの、愛斗くん? さっきからニヤニヤしたり、急に黙ったりして……何かあるの?」
正子が隣から手を伸ばし、愛斗の膝にそっと手を置く。
 その瞬間、愛斗の体がぴくりと反応するのを感じ、正子ははっとする。周りに気づかれないよう、そっと手を添えたまま囁く。
「ふふっ、そういうことね。大丈夫、みんなには内緒にしておくから。……でも、私のことでそうなってくれるなんて、嬉しいな」
その時、ありさが声をかける。「どうしたの?」 正子は慌てて笑顔を作り、みんなに向けて言う。
「ううん、何でもないの! 愛斗くんがね、私がウインナー食べてるのを見て、可愛いなって思ってくれたみたい💕 ただ、それだけだよ!」
「えっ、それだけで照れてるの? 愛斗くん、可愛すぎる~!」
「まあまあ、仲がいいのはいいことだ。それより、料理冷める前に食べよう!」
「そうだね、乾杯しよう!」
再びグラスが重なる中、正子はこっそり愛斗の手を握りしめ、小さく囁いた。
「あとでゆっくり話そうね。愛斗くんのこと、もっといっぱい愛してあげるから💕」
愛斗は照れながらも、正子の手を強く握り返す。テーブルを囲む笑い声の中、ふたりだけの甘い秘密が、静かに心を温めていた——。