暗くて良くは見えないけれど、うっすらと黒い影が動く。

ガッシャーンとバスケットゴールが振動で揺れる。ボールの落ちる音、それから彼の……着地する音が聞こえた。

「どーだ!」
何かを吹っ切ったような声が響く。私たちは手を叩いて、山地くんはピーピーと口笛を吹いて口々に称賛した。

この日、いつもは背中を見ている槇野くんの隣に並んで帰った。槇野くんの居場所がこの河川敷じゃなくなった日。とても幸せな日だった。

「良かったね」この日、何度思ったかわからないこの言葉を槇野くんにかけた。

「うん」
「もう学校来なかったらどうしよーって心配しなくていいね」
「うん」
それから、何だろう、えっと……最後なのだから、何か話さなきゃと思ったけれどそこからは何も出てこなかった。

「これ、持ってて」
渡されたのは、シルバーブルーの派手な中でも一番地味なバスケットボール。

「そうか、もういらないのか……」
「俺がここにいたら、それ持ってここへ来て」
「うん」

マンションは近すぎて、私はそこでみんなと別れた。どうして槇野くんがこのボールを私に預けたのかわからないけれど、これを持って河川敷に行く事はないのだろうと思う。槇野くんはもうここへは来ないのだから。

彼の決心を誇りに思う。ぽっかり穴があいたように痛む胸を押さえて、良かったなって思った。