「ほら、これ! 失敗して転がったボールを追いかけるのって、格好悪くて切ない。だから、これはあんまり見ないで」

そう言って立ち上がって、ボールを掴んだ。もちろん、しっかり見ていたけれど、それに気づいた槇野くんが
「だからー、見んなやー」って恥ずかしそうに顔を背けた。

おかしくなってやっぱりまた笑ってしまった。

「槇野くんってさ、格好つけてるって思われたくもないし、格好悪いとこも見られたくないんだね」
「そ、わがまま、俺」

そう言って、あはって顔で笑った。屈託ない本当の笑顔だったと思う。胸がぎゅとなる。

「でも、一番……格好悪いとこ、見せちゃった」
空はいつの間にかトーンを下げ、帰らなきゃいけない時間なのがわかる。

「ううん」私はぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことないよ」ちゃんと伝わる様に、私は彼から目を逸らさなかった。

「俺ね、ちょっと今……楽しいんだ」
そう言った槇野くんに胸に熱いものが込み上げる。

「うん、今からきっと、もっと楽しくなると思うよ」
「……うん」

歩き出した背中を追いかける。

「またね、槇野くん! 明日ね。明日学校でね!」
背中に声をかける。それに槇野くんは左手をちょっと上げた。

槇野くんの高校生活がもっと楽しくなればいいのに。もっともっと、楽しくなればいいのに。