「一人っていいよね。気楽で。好きに出来て。場所もいらないしな。でもせっかくなら上を目指そうと思って。本気でやろうと思った。フリースタイル。じゃあ、高校行ってる時間が惜しくなった」
それでかと合点が行った。

「これさ、音楽に合わせてやるんだよ。じゃあ、とたんにダメんなって、俺……音感全くないの。新たな自分を発見」
真顔で自虐的な事を言うから、また吹き出して笑ってしまった。
「あはは! 新たな自分とか! あはは!」

槇野くんの前では由紀恵が乗り移ったみたいで笑いが止まらなくなってしまう。そんな私を、槇野くんは静かに笑って、落ち着くのを待っていてくれた。

「笑いすぎだっての」
とは言ったものの、その瞳はとても優しかった。

「俺さ、身体の動きが固いんだよね」

それは身体が柔軟かどうかではなく、ぎこちないということだろう。

「え、そうかな? 滑らかに動けてたよ」
「うーん、でもやっぱり固い」
納得出来ないらしく、不服そうに言った。

「脳から身体に指令を出して、その伝達が上手く行ってないのかなあ」
これも真顔で言うから、冗談ではないのはわかるけれど、吹き出しそうになって慌てて口を押さえた。

ん?と、私の顔を伺って
「いや、マジでよ」と、何か技を披露して見せてくれたけれど、キャッチしそこねて、ボールはコロコロとベンチから離れていった。