『無理はしないで。俺は俺で……大丈夫だから』
ここへ来るようになって、槇野くんが言った言葉を思い出していた。

『無理はしないで』その意味が。もう誰も傷つけたくなかったんだって。

小学生から中学生に変わると、それはもう全く別物の世界で急に忙しくなった。勉強も、部活も、人間関係もクラスメイトだけじゃなく同じ学年だけでもなく上下関係が生まれた。先輩を差し置いて常にスタメンに選ばれていた槇野くんにとって、重圧もすごかったのだと思う。努力だって、うんっとしたのだと思う。

「バスケの事を考えたくなくて……。バスケットっていうか、全部だな。全部。高校は幸い家から通えるところに入れた。俺の事、だーれも知らないとこだし、もう一度一からって……思ってたんだけどね」

槇野くんの空席だった座席を思い出していた。それから誰も知り合いのいなかった私も入学式ではすごく緊張した。不安だった。ひとりぼっちが嫌で由紀恵に声をかけたのを思い出した。

「槇野くん、入学式は出てたんだよね」
「そう、あの体育館に人がたくさんいて……誰かと言葉を交わした時、急に嫌になった。新たな人間関係を築くってどうしたらいいんだろって、今までどうしてたのかわからなかった」
知らない人の団体って恐怖だ。トラウマができていたなら尚更だろう。