「ねえ、意味ある? パスもシュートも出来なくなるよ」
「……本当だ」

今日もお腹を抱えて笑ってしまった。
槇野くんは、ばつが悪そうな顔をしながらも時々嬉しそうに私を見ていた。

「じゃあ、こうしたらどうだろう」
と、私の手に、自分の手を重ねた。

ボールがコロンと転げた。
身長差があるから、手を繋ぐのもなんかおかしい。といっても初めてだからわからないけれど。

「変だね、なんか」
「じゃあ、これはどうだろう」と、少し先を歩いてくれる。余っていた腕がちょうど良くなった。

「やっぱ、ちょっと顔がみれないし、やだな」槇野くんはそう言うと、ちょいっとベンチの方を指した。
座ろうってことかな?
「本当だ。座ってると繋いだ手も、身長も違和感ないね。槇野くん、天才!」

槇野くんの視線がうちのベランダへと走った。
「……そろそろね。特別っぽくなりたい」
「え?」
「男子でさ、唯のこと『唯』って呼び捨てすんの、俺だけ」
「うん」
「俺のこと、全員『槇野』って呼ぶ」
「うん、だから?」

何だって言うんだろう。特別っぽくとは。

「……唯ってさ、鈍いよね」
と、槇野くんが言った。ああ、さっきのまだ怒ってる。それから“本領発揮”の槇野くんだ。

槇野くんはもう一度ベランダへと視線を走らせた。
「俺の名前、知ってるよね」
「うん」
知ってるよ、そりゃあ。最初から知ってるし。

「じゃあ、今日からそれ呼ばないと」
「……呼ばないと?」
「キスする」

と、耳元、小さな声で言った。

……呼べないよね。だって……。
 槇野くんってさ、本当、鈍いよね。

だから、また今度呼ぶことにしたよ。

 周(あまね)くん。