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「……槇野」

声を掛けられて足を止めた。俺が家から出られなくなった原因のやつだった。ドクンと心臓が大きくなった。声をかけられると思ってなかった。あの日から一度も喋らないまま、卒業した。

「……久しぶりだな。デカイからすぐわかったよ」
 そいつはそう言うと、俺の肩にかかったバッグに気づくと
「高校でもバスケ頑張ってるか?」と、変わらない顔で言った。

「うん、いいチームなんだ。楽しい」
「そっか、俺は今は吹奏楽やってるんだ。ユーフォニアムって楽器。バスケ向いてなかったからさ。文化系にしたのに、かなりスパルタで……でも、中学の合宿に比べたらマシだって頑張ってるよ。あの経験のおかげ」
「はは、確かに。あれ、キツかったもんな」
「じゃあ、お互い頑張ろう」

そう言って、以前のように笑って手を振った。

自分でも驚くくらいに穏やかにそいつの背中を見送った。もしかしたら、あいつは俺が強豪校に行かなかった事を知っていたのかもしれない。知っていて『頑張ってるのか』って聞いてくれたのかもしれない。

言う必要はない。あの言葉で駄目になったこと。知ったら、苦しむだろう。今は俺にとっても、あいつにとっても……いい思い出になってるなら、それでいいだろう。