『唯』って呼んだ。この前まで『宮原さん』だった。槇野くん今……『唯』って呼んだ。みんな無反応だし、気のせいかな。

「俺、化学が一番好き」と、槇野くん。
「お、マッセン喜ぶんじゃない?」
 マッセンは化学の先生だ。
「マッセン、授業面白いもんね。わかりやすいし」
 みんなのマッセンの人気はなかなかだ。

「俺さ、学校来なかっただろ?」
 もう、槇野くんの中でも触れていい話題なのだろう。だけど、少しだけ空気が変わる。

「マッセンが担任だからさ、何回か電話あって、登校した時さ。叱責されるか、もしくは変に“よく来たな”みたいに褒められるのか、どっちも嫌だなあって思ってたんだよ。そしたらあの人、何て言ったと思う?」

「えー、なんだろ、マッセン想像つかない」
「お前、デカイな。だよ。緊張して損した。でもゆるいのが救われた」
「確かにね」
「次会った時は『お、槇野! いつの間にか俺よりデカくなったなぁ!』って言われたんだけど……多分入学当初から、俺……マッセンより大きかったんだよね」
「つか、入学してまだ数ヶ月じゃん」
「バカらしくなって、『成長期なんで』って返しといたわ」
「あはは!」
 そうやって、槇野くんも時々みんなの前で色んな話をしてくれる。