君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

ふと、ゆっくりと目を開ける。

「……え?」

目の前に広がっていたのは――。さっきまで見ていた、あの桜の木だった。風に揺れる枝。ひらひらと舞い落ちる花びら。

「うそ……」

私は、呆然とその場に立ち尽くした。そして。桜の木の下に、ひとりの少女が立っている。青白い顔。見覚えのある横顔。

「……あれ」

胸が、大きく跳ねた。

「私だ……」

そうだ。あれは、中学の入学式の日の私。母が交通事故で亡くなってから、ずっと気持ちが沈んでいた。もうすぐ三年が経つというのに前を向けずにいた時期だ。
大切な人を突然失う。昨日まで当たり前だった幸せが、何の前触れもなく崩れてしまう。それでも、残された人は歩いていかなければならない。父はきっと、私以上につらかったはずなのに。私の前では、必死に笑ってくれていた。
――幸せが崩れるときは、なんの前触れもない。そんなことを思い出していた、そのとき。ふと、顔を上げる。そして――。息が止まった。

「…翼だ」

少し離れたところを、翼が歩いている。さらりとした黒髪と真新しい制服姿。見間違えるはずがない。

「どうして?」

思わず顔を隠した。でも。翼は、そのまま私の横を通り過ぎていった。

「……あれ?」

私はそっと顔を出す。翼は、何事もなかったように歩いていく。私の存在なんて、最初から気づいていなかったみたいに。
私は、桜の木の下にいるもうひとりの自分を見る。青白い顔をした私は、こちらを見もしない。

「私、見えてない?」

その瞬間。ここが現実じゃないことを、ようやく実感した。