君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

「まあ、そういうことだからさ」

長谷くんは、それ以上何も言わずに私の横を通り過ぎようとした。

「…あの、長谷くん!」

思わず呼び止める。長谷くんの肩が、びくっと跳ねた。確かにそんな噂は聞いた。だけど。

「本当に?」

聞きたいことが喉の奥につかえている。

「何か知らない?」

私がそう尋ねると、長谷くんはゆっくりと首を横に振った。

「ご、ごめん。俺は…何も」

そう言って、逃げるように歩き出そうとする。

「待って!」

その前に、隣にいた梓がぐっと立ちはだかった。黒髪のボブが、ふわりと揺れる。

「時宮、あんなに望叶のこと好きだったじゃん!!」

「梓…」

「急に振っといて…何か言ってなかったの?」

梓の言葉に、長谷くんが俯いた。しばらく、何も言わない。やがて――。何かを決心したように、ゆっくりと顔を上げた。その目には、今まで見たことのないような苦しさが浮かんでいた。

「…とりあえず、場所移そう」

そう言って、長谷くんは歩き出した。私たちは三人で人混みを避け、神社の奥へ向かった。さっきまで聞こえていた祭りの喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。境内の静かな場所で、長谷くんが足を止めた。そして――ゆっくりと顔を上げる。

「翼、死んだんだよ」

「え?」

何を言われたのか、わからなかった。死んだ?誰が?頭の中で、その言葉だけが何度も繰り返される。

「何、冗談言ってるのよ!」

梓が声を荒らげ、長谷くんの肩をぐっと掴んだ。

「そんなわけ――」

「本当だよ」

長谷くんの声が震えた。その顔が、苦しそうに歪む。

「翼はもう、いない」

世界から音が消えた気がした。祭りの音も。人の笑い声も。全部、遠くに引いていく。

「翼が?」

ようやく出てきた声は、自分でも驚くほど小さかった。私の隣にいた人。笑っていた。私の手を握ってくれた。なのに――。

「死んだ…?」

その言葉を口にした瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。

「嘘だ」

首を横に振る。あんなに元気だったのに、笑ってくれていたのに。私に別れようって言ったのは私のことが嫌いになったからじゃないの…?わからない。わからないよ。
長谷くんは、何も言わなかった。ただ、苦しそうに目を伏せていた。その沈黙が何より苦しかった。