君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

母が亡くなってから、私は思いっきり泣けていなかった。というより、突然の交通事故で、気持ちが追いつかないまま時間が過ぎてしまった。悲しいはずなのに。寂しいはずなのに。涙だけが、うまく出てこなかったんだ。……お母さんは、こんな私をどう思っているんだろう。そんなことを思っていた頃だ。

「なるほどね」

翼が、ぽつりと言った。

「蒼井は、自分の感情を出すのが苦手なのかもね」

「あ……そうかも」

言われてみれば、そうなのかもしれない。

「でも、代わりに泣いてくれてるって考え方、俺は好きだな」

翼の声は、いつもより少しだけ優しかった。

『なんか、すごい優しい考え方だ。たぶん蒼井は、俺には知らない悲しみを抱えてるのかもしれない。それを今、無理に聞くのは違うし。慰めるのも、なんか失礼な気がする』

翼は、何も聞かなかった。「どうしたの?」とか。「何かあったの?」とか。そんなことを、ひとつも聞かなかった。ただ、私の言葉をそのまま受け止めてくれた。
翼は、明るくて、元気で。私には、太陽みたいな人に見えていた。でも――。それ以上に。やっぱり、優しい人なんだ。翼の心の声を聞いているからこそわかってしまった。

雨はまだ、窓の外で降り続いている。その音が、今は少しだけ心地よかった。