◇
雪司side
――月影美術館。
絵は、光だけでは本当の姿にならない。光があれば、そこには影が生まれる。
昼の光と、夜の影。その両方を受け止められる美術館にしたい。
そう思って、わしはこの場所を『月影美術館』と名づけた。
月の光は、太陽ほど強くはない。
けれど、暗闇の中にあるものを、そっと、優しく照らしてくれる。
だから、わしは月の光が好きだ。人の心に、一番近い光だと思うから。
翼は、絵を描くのが好きだった。
色彩感覚もずば抜けていて、描く絵には、翼の優しさがそのまま表れていた。
優しくて、まっすぐで。
要領もよくて、ときどき驚くほど大人びた一面もある。
それなのに、肝心なところでは不器用な孫だった。
――そんな翼が、亡くなった。
今でも、あの声を思い出す。
『彼女、できたんだ。今度連れてくる』
嬉しそうに笑っていた。
『雪じいからもらったステンドグラス風のしおり、すごい喜んでくれててさ』
そして、彼女が初めてこの美術館を訪れた日。一目見て、わかった。控えめな笑顔。礼儀正しくて、素直な子だった。けれど――その瞳の奥には、深い悲しみがあった。
翼のことだ。きっと、彼女を傷つけないために、離れることを選んだのだろう。それが翼自身の決めたことなら、わしが口を出すことではない。そう思っていた。
ただ、翼が描いた絵に惹かれるように、彼女がこの場所を訪れる姿を、わしはずっと見ていた。
絵を見つめるたびに、少しずつ表情が変わっていく。最初は俯いていた彼女が、少しずつ顔を上げるようになった。
笑うことも増えた。その姿を見るたびに、わしはどこか安心していた。
雪司side
――月影美術館。
絵は、光だけでは本当の姿にならない。光があれば、そこには影が生まれる。
昼の光と、夜の影。その両方を受け止められる美術館にしたい。
そう思って、わしはこの場所を『月影美術館』と名づけた。
月の光は、太陽ほど強くはない。
けれど、暗闇の中にあるものを、そっと、優しく照らしてくれる。
だから、わしは月の光が好きだ。人の心に、一番近い光だと思うから。
翼は、絵を描くのが好きだった。
色彩感覚もずば抜けていて、描く絵には、翼の優しさがそのまま表れていた。
優しくて、まっすぐで。
要領もよくて、ときどき驚くほど大人びた一面もある。
それなのに、肝心なところでは不器用な孫だった。
――そんな翼が、亡くなった。
今でも、あの声を思い出す。
『彼女、できたんだ。今度連れてくる』
嬉しそうに笑っていた。
『雪じいからもらったステンドグラス風のしおり、すごい喜んでくれててさ』
そして、彼女が初めてこの美術館を訪れた日。一目見て、わかった。控えめな笑顔。礼儀正しくて、素直な子だった。けれど――その瞳の奥には、深い悲しみがあった。
翼のことだ。きっと、彼女を傷つけないために、離れることを選んだのだろう。それが翼自身の決めたことなら、わしが口を出すことではない。そう思っていた。
ただ、翼が描いた絵に惹かれるように、彼女がこの場所を訪れる姿を、わしはずっと見ていた。
絵を見つめるたびに、少しずつ表情が変わっていく。最初は俯いていた彼女が、少しずつ顔を上げるようになった。
笑うことも増えた。その姿を見るたびに、わしはどこか安心していた。



