君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

翼がゆっくりと手を伸ばす。そして――私を抱きしめた。細い。驚くほど細くなった腕。抱きしめる力さえ、あの頃よりずっと弱い。それなのに、肩は小さく震えていた。

「望叶…なんで来たんだよ」

翼の声も震えている。

「だめじゃん…最後まで、カッコつけさせてよ」

「翼…」

私は翼の服を、ぎゅっとつかんだ。涙が止まらない。

「私、翼のことが大好きなの」

言葉にすると、胸がもっと苦しくなる。

「後にも先にも、翼しかいない。ずっと翼といたい。手をつなぐのも、隣で笑い合うのも……翼じゃなきゃ嫌だよ」

翼を見つめる。言ってから、自分でも思った。――勝手だ。ずいぶん勝手なわがままだ。翼がどれだけ頑張ってきたのかも知っている。私のために、ずっと病気を隠していたことも。それなのに私は――。それでも、もう言わずにはいられなかった。

「私、翼と一緒にいたい」

翼は、しばらく何も言わなかった。やがて、私の背中に回した腕に、ほんの少しだけ力を込める。

「望叶…好きだ」

耳元で、優しく囁かれた。

「別れようって言って、ごめん」

翼の声がまた震える。

「向き合うことから逃げてた。俺……望叶と一緒がいい。この先も、ずっと一緒にいたい」

その言葉に、胸が締めつけられる。

「他の誰かに、望叶を預けたくなんかない」

翼は、少しだけ笑った。けれど、その瞳には涙が浮かんでいた。

「でも…それでも」

ゆっくりと、私の涙を指で拭う。

「俺は、もう一緒にはいられない」

胸の奥が、ぎゅっと潰れた。わかってる。そんなに都合よくはいかない。ここに来る前から、わかっていた。

「もう、死ぬ」

翼が自分自身に言い聞かせるように呟く。

「俺がそれを一番わかってるから」

何か言いたいのに、言葉が出てこない。すると翼が、ふっと笑った。

「望叶…俺、生まれ変わったら鳥になるよ」

「と、鳥?」

思わず聞き返す。

「そう」

翼は真剣な顔で頷いた。

「贅沢言うなら、望叶が見惚れるくらいのイケメンになりたいけど」

「ふふっ…なにそれ」

泣いていたはずなのに、思わず笑ってしまう。翼も楽しそうに笑った。

「鳥ならさ」

そう言って、空を見上げる。

「力いっぱい羽ばたいて、望叶のところまで飛んでいけるだろ?」

「…そうだね」

私も空を見上げる。桜の花びらが、青い空へ吸い込まれるように舞っていた。