君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

雪じいに頭を下げ、月影美術館を出る。心配そうに何か声をかけてくれていたけれど、何を言われたのか、もう頭に入ってこなかった。家には、帰りたくなかった。気づけば私は、翼と初めて出会った河川敷に来ていた。風に揺れる緑の葉。あの日と同じ場所なのに、隣に翼はいない。
――翼が病気のことを隠していたのは、全部、私のためだった。
私が笑っていられるように。
私が普通に毎日を過ごせるように。
最後まで私のことばかり考えていた。

「会いたいよ」

声にした途端、また涙が溢れた。

「ずるいよ…翼」

生きているうちにちゃんと話したかった。伝えたいことがたくさんあったのに。ステンドグラス風のしおりを取り出す。翼がここで私にくれたもの。夕陽を受けてキラリと光った。何気なく、そっと中を覗き込む。その瞬間――。

「……翼?」

彼の姿が、一瞬だけ見えた気がした。もう一度。もう一度だけでいい。ちゃんと会って、話したい。そう思った瞬間、私は駆け出していた。

「私…何も伝えてない」

走りながら涙がこぼれる。

「ちゃんと…ちゃんと言えてない……!」

好き。大好き。いつだって私を想ってくれていた翼に、私は何も伝えられていない。

「翼……!」

心臓が痛い。息が苦しい。それでも、足を止められない。足がもつれて、地面に倒れ込んだ。

「いたっ……!」

膝に痛みが走る。見ると、擦りむいたところから血が滲んでいた。それでも私は立ち上がった。こんなことなら――。もっと真面目に体育の授業を受けておけばよかった。そんなことを思ってしまって、涙がまた溢れる。前が見えない。息も苦しい。
それでも、走った。翼に伝えるために。今度こそ、ちゃんと。私の気持ちを――。