君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

「これ、絶対だめだ」

翼が、書き終えたキャンバスを見つめる。

『だって、優しい望叶はこれを読んだら、俺のことをずっと忘れられない。俺に縛られて、幸せになれなくなる……』

翼の手が、キャンバスの上で止まった。

『こんなの…呪いだ。俺のエゴだ。本当は、忘れてほしくない。俺のことを覚えていてほしい。ずっと好きでいてほしい。他のやつと手をつないだり、キスしたりしてほしくない』

一瞬、翼の表情が歪む。

『……そんなことを思ってる。でも、そんな権利、俺にはない。隣にいることができない俺が、この先を生きる望叶を縛っちゃいけない』

翼は、ゆっくりと息を吐いた。

『なら、せめて……。せっかく別れたんだ。嫌なやつのふりをしたんだから。最後まで、嫌なやつでいよう。あー、あんなやついたな。それくらいに思って、幸せになってくれたほうがいい』

「そんなの、ないよ」

私は涙をぬぐうこともできないまま、翼を見つめた。

「翼…どうして、私は気づかなかったの」

翼は答えない。いや――。答えられない。だってこれは、過去の翼だから。翼は、ボールペンを手に取った。そして。キャンバスに書かれた文字を、ぐるぐると黒く塗りつぶしていく。
何度も。何度も。大切な言葉も。私への想いも。全部、真っ黒に。

「翼…ごめんなさい」

私は、背後から翼をぎゅっと抱きしめた。けれど――。腕の中に、翼はいない。私の身体は、翼をすり抜けてしまう。

「触れない」

涙がこぼれ落ちる。

「私、何も知らなくて…何も伝えられてない」

どれだけ手を伸ばしても。どれだけ抱きしめようとしても。もう、あの頃の翼には触れられなかった。