君が描いた色の中で、もう一度君に恋をする

私の視界が切り替わった。翼の部屋だ。カレンダーは三月。翼はベッドに横になりながら、私があげたスノードームを手に取った。そっと揺らして中の雪がふわりと舞っている。季節が変わっても――。翼はずっと部屋に飾ってくれていたんだ。

『別れようって伝えないと』

翼の心の声が聞こえる。

『多分、俺は死ぬ』

思わず息をのむ。

『薬を飲んでるけど、たいして効いてない。入院したところで、多分、治らない。なら、せめて望叶には何も知られないままがいい』

翼の声が、少し震えた。

『ひどい男だったなって。そんなやつのこと、忘れようって思えるように……』

「…翼」

胸がぎゅっと締め付けられる。――なんで。こんなときまで、私の心配をしてるの?なんで、そんなに優しいの?…ずるいよ。ずるい。私は、何も知らなかった。
翼の調子が悪くなっていたことも。
翼が絵を描くことも、絵が描けなくなっていたことも。何ひとつ、知らなかった。だから――。クリスマスのあとから、絵の続きがなかったんだ。私は何を見てたの?ずっと翼のそばにいたはずなのに。

「ばか」

涙が頬を伝う。

「私の……ばか」

◇
そして、この日。何も知らなかった私は。

「別れたい」

突然、そう告げられその場に固まった。

「ど、どうして……?」

「もう、望叶のこと好きじゃなくなった」

『嘘だ』

翼の心の声が聞こえる。

『好きじゃないなんて、嘘だ。好きだ、望叶のことが』

口から出る言葉と、心の中の言葉が、まるで逆だった。

「なんで……そんなこと言うの?」

「そういうことだから」

翼は、それだけ言って私に背を向ける。その背中を見て、思わず腕をつかんだ。このときの私は、気づかなかった。翼の肩が、小さく震えていたことに。

「どうして…」

声が震える。

「私のどこが嫌になったの?」