翌日。
午後の講義を終えた直充は、校舎の一階を歩いていた。
次の予定までは少し時間がある。
急ぐ必要もなく、いつものように廊下を歩いていたときだった。
「…………」
直充の足が止まる。
廊下の先。
出入口に近い広い通路の壁際に、大型の台車が置かれていた。
大学へ運び込まれた備品らしい。
大きな段ボール箱がいくつも積まれ、太いベルトでまとめられている。
台車の側面には、一枚の紙。
『荷物には触れないでください』
その下には、管理シールが貼られていた。
『誠星大学 台車番号5』
「…………」
台車のある場所から数メートル先。
通路は緩やかな下り坂になっている。
直充は、その横を通り過ぎる。
少し離れたところでは、作業員が別の荷物を運んでいた。
特に珍しい光景ではない。
そのまま歩くつもりだった。
けれど。
「…………」
数歩進んで、振り返る。
台車を見る。
気のせいか。
さっきより、少しだけ位置が違うように感じる。
「…………」
車輪にはストッパーが掛かっている。
見た限りでは、きちんと下まで押し込まれていた。
誰かが触った様子もない。
直充は床のタイルの継ぎ目と、車輪の位置を見比べた。
「…………」
やはり。
動いたような気がする。
ただ、今は完全に止まっている。
直充は近くにいた作業員へ向かった。
「すみません」
「はい?」
「あの台車なんですけど」
「台車?」
「少し動いてませんか」
「え?」
男性が壁際を見る。
「動いてないですよ」
「さっきより、位置が変わったように見えたんですけど」
「…………」
男性は台車を見てから、直充へ視線を戻した。
「ストッパー掛けてますから」
「確認してもらえませんか」
「…………」
少し面倒そうな顔をされた。
それでも男性は台車まで歩き、車輪を見る。
「ほら」
足元を示した。
「ちゃんと掛かってますよ」
「…………」
直充も見る。
確かに。
ストッパーは完全に下りているように見える。
「さっき掛けたんで、大丈夫です」
「……そうですか」
「はい」
男性は別の作業へ戻っていった。
「…………」
作業員の反応も当然だった。
目の前の台車は止まっている。
ストッパーも掛かっている。
それでも。
直充の中に残った違和感は消えなかった。
台車へ近づく。
『荷物には触れないでください』
「…………」
自分で動かして確かめるわけにもいかない。
午後の講義を終えた直充は、校舎の一階を歩いていた。
次の予定までは少し時間がある。
急ぐ必要もなく、いつものように廊下を歩いていたときだった。
「…………」
直充の足が止まる。
廊下の先。
出入口に近い広い通路の壁際に、大型の台車が置かれていた。
大学へ運び込まれた備品らしい。
大きな段ボール箱がいくつも積まれ、太いベルトでまとめられている。
台車の側面には、一枚の紙。
『荷物には触れないでください』
その下には、管理シールが貼られていた。
『誠星大学 台車番号5』
「…………」
台車のある場所から数メートル先。
通路は緩やかな下り坂になっている。
直充は、その横を通り過ぎる。
少し離れたところでは、作業員が別の荷物を運んでいた。
特に珍しい光景ではない。
そのまま歩くつもりだった。
けれど。
「…………」
数歩進んで、振り返る。
台車を見る。
気のせいか。
さっきより、少しだけ位置が違うように感じる。
「…………」
車輪にはストッパーが掛かっている。
見た限りでは、きちんと下まで押し込まれていた。
誰かが触った様子もない。
直充は床のタイルの継ぎ目と、車輪の位置を見比べた。
「…………」
やはり。
動いたような気がする。
ただ、今は完全に止まっている。
直充は近くにいた作業員へ向かった。
「すみません」
「はい?」
「あの台車なんですけど」
「台車?」
「少し動いてませんか」
「え?」
男性が壁際を見る。
「動いてないですよ」
「さっきより、位置が変わったように見えたんですけど」
「…………」
男性は台車を見てから、直充へ視線を戻した。
「ストッパー掛けてますから」
「確認してもらえませんか」
「…………」
少し面倒そうな顔をされた。
それでも男性は台車まで歩き、車輪を見る。
「ほら」
足元を示した。
「ちゃんと掛かってますよ」
「…………」
直充も見る。
確かに。
ストッパーは完全に下りているように見える。
「さっき掛けたんで、大丈夫です」
「……そうですか」
「はい」
男性は別の作業へ戻っていった。
「…………」
作業員の反応も当然だった。
目の前の台車は止まっている。
ストッパーも掛かっている。
それでも。
直充の中に残った違和感は消えなかった。
台車へ近づく。
『荷物には触れないでください』
「…………」
自分で動かして確かめるわけにもいかない。



