シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 夕方。

 仕事を終えた梨来は、事務室を出た。

 廊下には講義を終えた学生たちがちらほら残っていて、友達同士で話しながら校舎を出ていく。

「今日どっか寄る?」

「駅前行こうよ」

「コンビニ寄っていい?」

 そんな声が聞こえて、梨来は何となくそちらを見た。

 学校が終わって、誰かと一緒に帰る。

 途中で寄り道をして、どうでもいい話をしながら歩く。

 きっと彼らにとっては、何でもないこと。

 梨来は少しだけ、その背中を目で追った。

「梨来さん」

「んー?」

 後ろから聞こえた声に振り返る。

「あ、直充くん」

 肩に鞄を掛けた直充が、こちらへ歩いてくる。

「今帰りですか」

「うん。直充くんも?」

「はい」

「駅?」

「そうです」

「私も」

 そのまま二人とも同じ方向へ歩き出した。

 どちらから誘ったわけでもない。

 けれど自然と隣に並ぶ。

「梨来さん」

「んー?」

「嬉しそうですね」

「分かる?」

「顔に出てます」

「そうなんだ」

「何かあったんですか」

「今あったよ?」

「今?」

「直充くんと一緒に帰れること」

「…………」

 直充が梨来を見る。

「駅までですよ」

「うん」

「十分くらいですけど」

「知ってるよ」

「じゃあ、何がそんなに嬉しいんですか」

「学校から誰かと一緒に帰るの、やってみたかったから」

 梨来は少し先を歩く学生たちを見る。

「こういうの、学生っぽいでしょ?」

「普通だと思いますけど」

「うん。だからいいの」

「…………」

 直充には、まだよく分からないらしい。

 それ以上は聞かず、また前を向く。

 歩く速さは、梨来と同じだった。