シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 昼休み。

 事務室へ戻る途中、梨来は足を止めた。

「…………」

 少し先を、学生たちが次々と同じ方向へ歩いていく。

 友達と笑いながら。

 今日の講義の話をしながら。

 何を食べるか相談しながら。

 向かう先は、分かっていた。

 学生食堂。

「…………」

 梨来はしばらく、その流れを眺めた。

 大学へ来てから何度も見ている光景だった。

 昼になれば、学生たちが学食へ向かう。

 食事をして。

 友達と話して。

 午後の講義へ行く。

 ただ、それだけ。

 でも梨来は、その〝ただそれだけ〟を経験したことがない。

「…………」

 一度くらい。

 食べてみたいなぁ。

 職員が学食を利用しても問題はない。

 一人で入れないわけでもない。

 それでも、なぜか今まで入ったことはなかった。

 梨来が見ていたのは、料理ではなく。

 楽しそうに歩いていく学生たちの方だったから。

「……戻ろ」

 そう呟いて歩き出そうとしたとき。

「梨来さん!」

「んー?」

 振り返る。

 希美がこちらへ駆けてきた。

「お昼、もう食べました?」

「まだだよ」

「じゃあ、一緒に食べません?」

「え?」

「私も今からなんです」

「…………」

 梨来が瞬きをする。

「どこで?」

「学食ですけど」

「…………」

「一緒に行きたい」

「行きましょう!」

「うん」

 希美の隣に並ぶ。

 学生たちと同じ方向へ歩き出す。

 それだけで。

 梨来の足取りは、いつもより少し軽くなった。