シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 翌日。

「梨来さん!」

「はーい」

 事務室の前で手を振る希美に、梨来もひらひらと手を振り返す。

「昨日、チョコちゃん無事に家帰ったみたいですよ!」

「ほんと?」

「はい! さっき写真送ってもらいました」

 希美がスマートフォンを差し出す。

 画面には、クッションの上で丸くなって眠るチョコ。

「あぁ、よかったぁ」

「めちゃくちゃくつろいでますよね」

「昨日あんなに怖がってたのにねぇ」

「家が一番なんでしょうね」

「そっかぁ」

 梨来は画面を見ながら笑った。

 よかった。

 チョコが無事に帰れたことも、飼い主の女子学生が今日は少し眠れたらしいことも。

 それから――

『大丈夫』

「…………」

 昨日の直充の声が、ふいに蘇る。

 低く、落ち着いた声。

 怯えるチョコへ手を伸ばしながら、ゆっくりと話しかけていた。

『怖くない』

「梨来さん?」

「んー?」

「ぼーっとしてません?」

「してないよ?」

「してました」

「考え事してただけ」

「何の?」

「…………」

 梨来は少し考える。

「昨日のこと」

「猫の?」

「それもあるよ」

「それも?」

「うん」

 希美がじっと梨来を見る。

「なぁに?」

「最近、なんか楽しそうですよね」

「そう?」

「はい」

 昨日も、似たようなことを言われた。

『でも、嬉しそうですね』

「…………」

 今度は直充の顔まで浮かんだ。

「梨来さん?」

「んー?」

「また考えてる」

「考えてるよ?」

「何を?」

「……いろいろ」

「怪しい!」

 梨来は、ふふっと笑った。

 自分でもまだ分からないのだから、説明のしようがない。

 ただ。

 今日も直充に会えたらいいな。

 そんなことを思った。