シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 翌日。

「パイセン!」

 廊下を歩いていた直充は、聞き覚えのある大きな声に足を止めた。

「…………」

 振り返ると、黒いキャップを被った男子学生がこちらへ走ってくる。

 昨日の騒ぎのときに居合わせた、大我だった。

「パイセン!」

「その呼び方やめろ」

「じゃあ師匠!」

「もっとやめろ」

「え、なんでっすか!?」

「どっちも違う」

「じゃあ直充さん!」

「それでいい」

「普通!」

「名前だからな」

 大我が笑いながら隣に並び、直充が再び歩き出すと当然のようについてくる。

「…………」

「…………」

 十歩ほど進んだところで、直充が横を見る。

「何でついてくる」

「え?」

「どこ行くんだ」

「まだ決めてないっす!」

「じゃあ何でこっち来る」

「直充さんいたから!」

「…………」

 迷いがない。

「昨日会ったばっかりだろ」

「でも名前知ってるじゃないっすか!」

「知ってるな」

「俺も直充さんの名前知ってます!」

「そうだな」

「ほら!」

「何が」

「もう他人じゃないっす!」

「…………」

 直充は前を向いた。

「まあ、いいけど」

「いいんすか!?」

「駄目って言ってもついてくるだろ」

「はい!」

「即答するな」

 大我が楽しそうに笑う。

「直充さん、次講義っすか?」

「ああ」

「俺、空きコマなんすよ」

「そうか」

「暇なんすよ」

「そうか」

「めっちゃ暇なんすよ」

「そうか」

「…………」

「何」

「なんか誘ってくれてもよくないっすか?」

「講義に?」

「それは行けない!」

「じゃあ無理だろ」

「そうだけど!」

 大我の声が廊下に響く。

 直充は小さく息を吐いた。

 昨日から思っていたが、よく喋る。